2022年10月12日
一橋ビジネススクール(HUB)「ホスピタリティ・マネジメント・プログラム」は、観光・ホスピタリティ産業の経営人材の育成を目的に開設された、社会人向けMBAコースです。その特徴や魅力を、同プログラムの講義やワークショップを担当する福地宏之准教授に聞きました。合わせて、福地准教授が関わっている三枝匡経営者育成基金による寄附講義や研究会の目的、意義についても語ってもらいました。
――「ホスピタリティ・マネジメント・プログラム」の内容と開設の背景を教えてください。
本プログラムは2018年度に、観光庁の高度経営人材育成事業の助成を受けてスタートしました。日本の新しい基幹産業として成長が期待される観光・ホスピタリティ産業を牽引していくリーダー人材を育成することを目的とした、実務経験3年以上の社会人を対象にしたMBAコースとして、平日の夜間・土曜日に千代田キャンパスで開講しています。
同じ千代田キャンパスの日本語MBAコースである「経営管理プログラム」をベースにしながら、ホスピタリティ産業に関わる知見の習熟のための教育内容を加えた、アドオン・プログラムと位置付けています。具体的には①「ホスピタリティ・マネジメント」「ホスピタリティ・マーケティング」の2つの専門科目、②ワークショップ(ホスピタリティ)、③ホスピタリティ産業の実務家などによる特別講義――の3つが設けられています。ホスピタリティ・マネジメント・プログラムの枠で入学してこれら科目を履修すると、通常の経営管理プログラムの学位に加えて、本プログラムの修了証が同時に授与されます。
学生数は毎年10名ほどで、旅行・宿泊・交通・テーマパークといった関連業界の出身者が大半ですが、将来この領域での起業を考えている方もいます。
――担当されている「ホスピタリティ・マネジメント」とはどんな講義なのですか。
春夏学期に開講される半年間・全14回の講義で、ホスピタリティ・マネジメント・プログラム以外の学生も受講できます。最初の3回を使って全体像を講義したのち、ケース討議とレクチャーを交互に挟んでいく構成です。今年度は、星野リゾートや外食グルメサイト業界などのケースを取り上げました。最後の2回はグループワークの発表です。4人程度の小グループを作り、グループごとに実際のホスピタリティ企業1社を取り上げて、当該企業の成功要因を詳細に分析してもらいます。
レクチャー部分は「戦略分析のフレームワーク」「業界構造」「ポジショニング」など、基本的には一般のMBAで教える戦略分析に近い内容ですが、ケースをホスピタリティ業界の企業に絞るとともに、この業界に固有の課題にフォーカスした講義を行っています。具体的に言うと、顧客を受け入れる物理的空間である「箱」(施設や航空機など)の問題と、そこで接客・サービスを提供する「人」(従業員・スタッフ)の問題です。箱の稼働率をどう向上させ、人をどうマネジメントしていくか。ホスピタリティ産業の課題はここに端的にあらわれると考えます。
こうした問題意識を踏まえて、学生たちに「企業の成長性と付加価値の向上」を強く意識づけするように心掛けています。現在は新型コロナウイルスの影響で苦境にあえぐ企業が多いものの、ホスピタリティ産業は基本的には成長産業です。一例をあげれば、訪日外国人旅行者数は、2012年〜2019年の年平均で23%も成長しています。日本だけでなく、グローバルでも国際間の人の移動が右肩上がりに伸びています。成長が止まるとシェア争いが熾烈になるので、業界が成長している時にその成長速度以上に成長するか、業界の中で独特なポジションを築いておかなければなりません。
ところが、日本のホスピタリティ産業は総じて収益性が低く、従業員の労働環境や給与水準にも課題があります。それらを解決・改善するには、従業員1人当たりの付加価値を高めていくほかありません。そのためにはどんな戦略をとり、どう「人」に落とし込み、企業全体をマネジメントすればよいのか。ホスピタリティ産業は接客、つまり従業員や従業員の活動そのものがサービスの主体になるので、戦略をどう現場の方々に落とし込んでいくかが、経営上きわめて重要なのです。
ホスピタリティ・マネジメント・プログラムの特徴
https://www.ba.hub.hit-u.ac.jp/programs/hmp-quality/
一橋ビジネススクール 三枝匡経営者育成基金
https://www.saegusa.hub.hit-u.ac.jp/