HUB-SBA MAGAZINE

企業のパーパスとサステナビリティに関するコーポレートファイナンス国際コンファレンスを開催①

2023年11月15日

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8月4日(金)、本学佐野書院において、みずほ証券寄附講義のご支援の下、Darla Moore School of Business, University of South Carolinaと本学が共催する第6回コーポレートファイナンス国際コンファレンスが開催されました。今回は、企業のパーパスとサステナビリティをテーマとし、アメリカを始め、スイス、カナダ、韓国、中国、ドイツからも研究者が参加し、活発な議論が行われました。

各セッションでは、プレゼンターからの研究成果に関する発表ののち、事前に指名された「ディスカッサント」と呼ばれるコメンテーターがその研究に対する意見を述べ、さらに他の参加者も加わって質疑応答が行われました。今回のテーマは、近年、世界的に議論が高まっており、各研究者からは企業の取組みや投資行動、政策に対して示唆となりうる意欲的な研究が相次いで報告されました。

【セッション1】"Environment"

Chairperson: Zacharias Sautner氏(University of Zurich and the Swiss Finance Institute)

How environmental policy and product market competition affect green innovation?
Presenter : Lilian Ng氏 (York University)
Discussant : Yongtae Kim氏 (Santa Clara University)
Institutional dual ownership and voluntary greenhouse gas emission disclosure
Presenter : Wolfgang Drobetz氏 (Hamburg University)
Discussant : 安田行宏氏 (本学経営管理研究科 )
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Ng氏のプレゼンテーションより

Lilian Ng氏の研究は、環境規制と企業のグリーンイノベーションの関係を明らかにするもので、企業間の競争が重要な要素となり、環境規制が強化される中では、より激しい競合の下にある企業は環境取組みにおいて他社との差別化を進め、それにより市場シェアを拡大、ひいては企業価値の増大につながることを明らかにしました。Yongtae Kim氏からは、競合の度合いによっても環境規制と企業のグリーンイノベーションの関係に影響があり得るとして、高い関心が寄せられました。

Wolfgang Drobetz氏からは、債権と株式の両方を保有する「Dual Holder」の存在が、その企業の温室効果ガス排出に関する自主的情報開示を促進するという研究が報告されました。これはDual Holderが、企業にリスク情報の開示を求めることが要因であることを明らかにしたものです。これについて安田行宏氏は、リスクサイドを重視する債権投資家の特性を併せ持つDual Holderの存在に着目したことに新しさがあるとした上で、その企業にとってのDual Holderの存在の大きさによっても、影響度合いが異なるのかといった観点で、さらなる研究の発展を期待する意見が出されました。

【セッション2】"Boards"

Chairperson: Yongtae Kim氏 (Santa Clara University)

Board ancestral diversity and voluntary greenhouse gas emission disclosure
Presenter : Sadok El Ghoul氏 (University of Alberta)
Discussant : 植杉威一郎氏 (本学経済研究所)
Empowering women by index membership: Evidence from a unique experiment from Japan
Presenter : 辻本祐介氏 (University of Alberta)
Discussant : Jungwon Suh氏 (Sungkyunkwan University)

Sadok El Ghoul氏は、企業の取締役の先祖代々からの出身国を調べ、その多様性と温室効果ガスの自主的開示の関係性を明らかにし、取締役会の多様性が企業の環境取組みに対してガバナンス効果を発揮するとの研究を報告しました。植杉威一郎氏からは、取締役会の多様性と温室効果ガス排出量の自主開示は同時期に社会からの注目度が上がっているため、両者の相関関係ではなく、これらの取組み強化が単に同時期であったということも考えられることから、さらなる検証に期待するなどの意見が出されました。

辻本祐介氏は、巨大な影響力を有するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が2017年に「MSCI日本株女性活躍指数(WIN)」を採用したことにより、企業における女性の登用などが進んでいるとし、特にWINの構成銘柄に選定されるか否かの境界近辺の企業においてその動きが顕著であると報告しました。その上で、こうした指数化が企業の社会的取組みに影響を与えうることを明らかにしました。これに対しJungwon Suh 氏からは、女性の活躍に関する企業行動への影響としては2016年に施行された「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」も大きいとの意見が出されました。

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辻本氏のプレゼンテーションより

 

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