HUB-SBA MAGAZINE

「AFTER MBA」第1回:シンポジウム「修了後も学び続ける意義とは」を開催

2026年06月15日

5月9日、本学千代田キャンパス大講義室において、「AFTER MBA」第1回、シンポジウム「修了後も学び続ける意義とは」が開催されました。これは、一橋ビジネススクール戦略的経営者研究会の一環として行われたもので、主に本学経営管理研究科の修士・博士後期課程の修了者や現役生が参加し、MBA修了後の学びについて考える機会となりました。当日は、経営管理プログラム2期生の廣澤拓氏と新間寛太郎氏が登壇し、それぞれMBA後の進学について講演。その後、お二人の担当教員でもあった西野和美教授(副学長・経営管理研究科)を交えたパネルディスカッションが行われ、参加者とも活発な質疑応答がありました。

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本学は昨年、国の「未来を先導する世界トップレベル大学院教育拠点創出事業(FLAGs)」に採択され、社会人向けの博士課程の拡大を進めるほか、学部・修士5年一貫教育プログラムやビジネススクールの充実化を図っており、社会科学における高度専門人材の育成に注力しています。「AFTER MBA」は、今後もHUB修了者などをゲストとして招き、学び続けることの意義を考えていきます。
戦略的経営者研究会サイトの開催報告記事では、HUB修了者のゲスト情報を募集しています)

廣澤拓氏「日本における大学院・学び・企業の実情 / 学びつづけることの意義」

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<略歴>
大学卒業後、大手日用品メーカーに入社以来、デジタルマーケティングやブランドマネジメント、DXなどを担当。2021年に経営管理プログラム(経営学修士:MBA)を修了後、博士後期課程のイノベーション・マネジメント・プログラムに進み、今年3月博士(経営)を取得。現在、副業としてベンチャー企業のマーケティング・PRにも従事。

日本企業における大学院修了の高度専門人材

近年、仕事で直面する課題解決のため、優れた分析能力と深い思考力を身につけようとMBAプログラムで学ぶ社会人は急増しており、国内の有名校はかなりの激戦状態です。ですが、日本の大企業は経営層の8割以上が学部卒で、大学院卒は社内ではマイノリティなんですね。また、企業側は従業員に対して大学院で「学び直してほしい」と言いつつも、学んだ成果を評価する制度がある企業はわずか1〜2割程度。完全に「自力で頑張ってね」というスタンスも多く、学び直しを実践している個人と企業の制度や体質との間に大きなギャップが生じています。

背景には、日本企業のメンバーシップ型雇用があります。これまで日本企業は、その会社の独自ルールを叩き込んだ「企業特殊的人的資本」によって成長してきたのです。そのため、MBAや博士課程で扱う、世界共通の理論やどの企業でも共通して使える汎用性の高いスキルに対する評価が低く見積もられています。加えて、「情報の非対称性」という問題もあります。例えば、MBAで学んだ人は知っている理論や概念を、必ずしも社内の人間すべてが知っているわけではありません。そのため、社内会議などで経営理論を持ち込んでも、共通言語として理解されないこともあります。以上のような理由から、高度専門教育の成果が、企業の内部で生かされていない現状があります。

MBA後の学び

私が就職して間もない頃のエピソードですが、京大の博士課程にいた取引先の方と仕事をした時に、自分の考えの根幹や前提、認識レベルまで徹底的に突き詰められ、彼の知識の深さに圧倒されたことがあります。そこで哲学的なレベルまで考え抜く力をつけないと、プロとして他者と信頼関係を築き、組織や社会に価値を提供できるようなビジネスパーソンになれないなと感じ、博士号まで取ると決めました。

MBA修了後に、同じく一橋の「博士後期課程イノベーション・マネジメント・プログラム」に進学しました。博士後期課程で感じたことは、博士論文とMBAのワークショップレポートとでは、求められるレベルに天と地ほどの差があるということです。MBAのレポートは学術論文ではないので、既存の二次データを集めて業界分析をして、ロジックの通った仮説を提示できれば合格点がもらえます。一方、博士後期課程はそれを遥かに超越した「知的総合活動」になります。一次データを集めて仮説を実証するだけでなく、哲学や経済学などの膨大な古典・既存理論を深く学び直すことが求められます。背景にある理論の成り立ちから突き詰め、未解決の現象をロジックと強固なエビデンスで説明し切る必要があるんです。

Amazon.com, Inc.の社長兼CEOアンディ・ジャシー氏は「学習能力」の重要性について語っています。学習能力とは、「能力(capability)」だけでなく「姿勢(attitude)」があって成立するものであり、知的な謙虚さこそが大切で、"自分は知識人だ"と思った瞬間から後退が始まる、と彼は指摘しています。これを聞いて、自分が博士後期課程で「学ぶ姿勢」そのものを培えたこと、未知の世界が広がる感覚を味わえたことは、間違いじゃなかったと改めて確信しました。

新間寛太郎氏「美術大学大学院での新たな学びと実践」

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<略歴>
大学卒業後、通信グループのシステムインテグレータ企業に就職し、その後、同グループの携帯通信キャリア会社に移籍。その際に新規事業開発に携わったことからHUBに入学し、21年修了。修了後、コンサルティング会社に転職。24年に武蔵野美術大学大学院造形構想研究科へ入学し、今年3月に修了。現在は、コンサルティング会社に勤務しつつ、プロボノ活動として地域課題の解決に取り組む団体にも参画。

デザイン・アートの学び

私はMBAを修了して数年後に、美術大学の大学院に進学しましたが、それはデザインやアートを学ぶことで新しいものの見方を見つけたいと考えたからです。それまではデジタルを扱う仕事柄「白か黒か」「無駄は悪」と割り切りがちでした。しかしデザインやアートの学びを通じて、物事をしっかりと観察すると、そこにはデジタルのように0か1かではなく「曖昧さやグラデーション」があると気づきました。一見無駄に見える余白や中間にこそ意味があるということです。その学びを得たのは、土曜日のアート実習での経験です。朝お題を出され、夕方までに自ら素材を探して自由に作品を作るのですが、まさに「意味を自分で考え、手を動かして形にする」授業でした。白黒をつける世界とは真逆の学びです。さらに刺激的だったのが、作った作品を先生方にプレゼンする講評会です。仕事の資料なら割り切れても、自分の内面を表現した作品へのダメ出しは、胸に突き刺さる貴重な経験でした。でも、そのおかげで「自分流の正解」とは違う他者の多様な視点に気づかされました。

また、美大に入る前はロジックが命、言語化が不可欠と考えていましたが、それだけでは表せないものがあることを学びました。そう気づかされたのは、1カ月に渡り取り組んだ建築デザイン演習でした。熊本県天草市の街づくりの提案で、建築は素人の4人の学生だけで挑戦しました。最初のリサーチ情報を基に議論するところまでは仕事でもよくある流れです。しかし、ここからが本番で、実際に200分の1スケールの模型を手作りし、プロトタイプを目の前に置くことで、言葉だけの時とは比べものにならないほど思考や議論がドライブされるんです。チームの思いを一つの形にしていくプロセスを通じて、「手を動かしてモノを作るという身体性がいかに思考を活性化させるか」ということを、身をもって体感した演習でした。

学びとキャリア

これまでの学びとキャリアについて振り返ってみると、私はシステムインテグレータ時代に技術を、新規事業開発に携わった際に経営を学びました。今のコンサルティング会社に転職し、それまでのテクノロジーやビジネスの知識だけでは上手くいかないとモヤモヤする場面に出会い、新しい視点や問いを見つけるためにデザインやアートを学びました。その過程で仕事と学びの中間的な場でのプロボノ活動も始めました。私にとって学びとは、キャリアで直面した壁を突破するための営みであり、また次のキャリアに向けた発射台ともなる営みです。キャリアと学びは常に往復しながら深めていくものだと、身をもって実感しています。MBAや美大大学院での学びは、今の仕事はもちろんのこと、人生を歩んでいく上で大いに生きています。

パネルディスカッション

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西野先生

廣澤さんからは、MBAから博士後期課程へ進んでよりインプットを増やしていくというお話をいただきましたが、MBAではまだ足りなかったという思いがありましたか?

廣澤氏

MBAで学ぶ理論は、明日から使えるように分かりやすく加工されていますよね。そのため、理論の根本的な成り立ちや厳密な違いまでは深く教わらないのですが、私は、MBA修了後に「イノベーション・マネジメント・プログラム」に進学したにもかかわらず、そもそも「イノベーション」という概念の成り立ちやその論理の背景すら知らないということを改めて突き付けられました。そこで、「イノベーションの父」として知られる経済学者のヨーゼフ・アロイス・シュンペーターの著書を原著で読むことから始めました。「イノベーション」の概念や理論に限らず、経営学にかかわる多くの理論的蓄積を知り、その本質や理論的背景が理解できていない状態では、博士後期課程で「経営学」や「イノベーション」について語り、論文を書くことは到底できないと痛感しました。

西野先生

一方、新間さんからは、「身体性」といったアウトプットの学びについてお話がありましたが、MBAでの学びからのモードの切り替えに難しさはありましたか?

新間氏

知識を得る学びから、アートやデザインの学びへの切り替えには本当に苦労しました。観察して解釈し、形にして他人の目にさらすというプロセス自体はビジネススクールと同じです。ただ、アートは「物質(フィジカル)」を相手にするため、言葉や論理を超えた生々しい身体性があります。そんな自分の内面を映した作品を他人に評価されるのは、レポートの添削とは次元が違う感覚でした。

西野先生

お二人は、会社や大学院とは別に副業やプロボノ活動をされています。忙しい中でそうした活動をする意味をお聞かせください。

新間氏

私の場合は、そこがキャリアと学びの「中間にある場」だからです。学んだことをすぐに本業で生かせなくても、まずはこの場で試行錯誤やプロトタイピングができます。モヤモヤしてすぐ転職するのではなく、心理的安全性を持って実験できる場があることに大きな意味を感じています。

廣澤氏

私がベンチャーで副業をしている理由は、まずは学費を稼ぐため。そして、経営学の「実験場」にするためです。本業の会社では自分はまだ一般的な企業で言う課長代理・係長ですが、社員数人のベンチャーなら、社長に対して直接戦略を提案して実践できます。もう一つは、経営学の理論とリアルな実践のバランスを取るためです。リソースの乏しいベンチャー企業では、大企業を想定した経営理論を持ち込んでも、そもそも理論通りに実践することができないということは多々あります。これはベンチャー企業に限った話ではありませんが、「戦略は素晴らしいけど、それで、明日どうするの?」という泥臭い現実に向き合わなければ、せっかく学んだ経営理論も、文字通り、机上の空論になってしまいます。お金、観察、実践のバランスを取るために今の形にたどり着きました。

西野先生

本日は、お二人からMBAでの学び、そしてその後の学びがご自身の中で大きな資産になっているというお話を伺い、担当教員としてはとても嬉しく思いました。ありがとうございました。

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