HUB-SBA MAGAZINE

MBA2年間の集大成・ワークショップレポートの振返り~西阪卓さん

2026年05月26日

経営管理プログラムでは、2年間を通じて少人数グループによるワークショップに参加し、経営リテラシーを高めます。2年次には各自で設定した研究テーマに対して調査・研究を進めるとともに、教員や他のメンバーとの議論を通じて考察を深め、その成果をワークショップレポート(学位論文に相当)として提出します。今回は、今年経営管理プログラムを修了した西阪卓さんに、ワークショップレポートの執筆を振り返っていただきました。


研究テーマと成果:実務家の「なぜ」から始まったEV普及研究と、補助金がもたらす歪み

私は本学のワークショップにおいて、補助金の格差がEVの普及に与える影響をテーマに研究を行いました。自動車会社に身を置く実務家として、日本のEV普及率の低さに強い問題意識を抱き、どうすれば日本の電動化シフトを加速できるかという問いからスタートした研究です。

従来の定説では、購入補助金の手厚さとEV普及には正の相関があるとされてきました。しかし、市町村単位の緻密なデータ分析を進める中で、私はある不都合な真実に突き当たりました。国の補助金に上乗せされる自治体独自の補助金は、短期的には爆発的な普及を生むものの、中長期的にはむしろ普及を阻害している可能性が浮かび上がったのです。このパラドックスの解明に、行動経済学のプロスペクト理論(参照点依存性)を用い、消費者が今買わないと損をする(後に損をする)と感じる心理の裏返しとして説明できた瞬間は、実務と学問が高レベルで結びついた、本研究最大の成果です。

苦労した点:現象を説明するための理論と分析

最も苦労したのは、手元にある市町村単位のEV普及に関するデータと、それを説明する理論とのマッチングでした。データが示す歪みを前に、マーケティング領域のどの理論を当てはめ分析を進めればよいか分からず、迂余曲折の日々が続きました。

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上原ゼミの夏合宿(右から3人目奥が西阪さん、中央が上原教授)

ブレイクスルーの契機は、2週間に一度のゼミでした。指導教員の上原渉教授(経営管理研究科)や、多様なバックグラウンドを持つゼミ生たちと徹底的に議論を戦わせる中で、消費者の心理的価値の基準(参照点)が動いているのではないかという仮説が浮上しました。ゼミという特別な空間に身を置き、仲間との対話によって複雑な事象を解き明かすことができた瞬間、目の前の霧が一気に晴れていった興奮を、今でも鮮明に覚えています。

ワークショップを通じて得られた成果:学問を突き詰める楽しさ

実は入学当初、マーケティングにはさほど強い関心を持っていませんでした。さらに私が関心を寄せた製品やサービスの普及理論は、経営学の王道から少し外れているのではないかという不安もあり、MBAのテーマとして相応しいのかと自問自答したこともあります。

しかし、上原ゼミでさまざまなマーケティングの理論に触れて思考を深めるうちに、マーケティングという学問の圧倒的な懐の深さに気づかされました。実務で感じる「なぜ?」を統計データで検証し、心理学や経済学のレンズを通して構造化していくプロセスは、私に学問を突き詰める楽しさを教えてくれました。単なるビジネス知識の修得に留まらず、一生モノの知的探求の動機を手に入れたことこそが、ワークショップを通じて得られた最大の収穫だと思います。

今後の抱負:社会人研究者として、実務と学術の懸け橋となる道へ

私がMBAで蒔いた研究の種には、まだ未解明のフロンティアが無数に広がっていると信じています。ワークショップを通じて学問の魅力に取り憑かれた私は、現在、本学経営管理研究科の博士後期課程(イノベーション・マネジメント・プログラム)に進学し、社会人として働きながら研究を続けています。

実務の最前線で市場の変化を体感しながら、学術の立場からもそのメカニズムを解き明かしていく、そんな実務と学術の懸け橋となる社会人研究者を目指しています。これからも楽しみながら、社会のイノベーション促進に貢献する研究を突き詰めて参ります。

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