2026年02月16日
去る12月20日、本学千代田キャンパスの大講義室にて、経営管理プログラム修士1年生による基礎ワークショップ報告会が行われました。このワークショップは、春夏学期の導入ワークショップに続いて行われるもので、この日の報告会では、修士1年全員が出席する中、各ワークショップの代表者がこれまでの研究成果を報告しました。日々の仕事の中で生じる課題や問題意識と、講義やワークショップで学ぶ理論や方法論を何度も往復しながら進めてきた研究の成果です。
経営管理プログラムは、修士2年間を通じてワークショップが必修科目となっており、1年次の導入および基礎ワークショップでの学びを基に、2年次のワークショップでは1年間を通じて個人単位での研究を進め、最終成果として学位論文に相当するワークショップレポートを提出します。
基礎ワークショップA代表
研究課題:「事業承継の解決手法としての日本型サーチファンドにおける現状と、定着・展望に関する考察」
日本では中小企業の事業承継に課題がある中、本研究では、サーチャー(経営者候補)とともにそうした企業を買収しバリューアップを行うサーチファンドが今後の解決策となり得るかを検証します。特に、黎明期にある日本のサーチファンドが今後定着するためのカギとなる超過リターンの成否について考察します。情報経済学の視点では、新興期(サーチファンドが少なく市場の非効率性が大きいため、割安なディールの獲得が可能な段階)から成熟期(成功事例を見てサーチファンド・サーチャーが増加)に移行する過程で情報の非対称性による優位性が薄れることが想定され、ゲーム理論では新規参入の増加により競争激化が起こり超過リターンが低下するとの仮説が考えられます。しかし、M&Aという非公開の経済活動ではそうした理論的仮説は否定しうると考えます。今後、先行するVC業界のリターンを分析することで、サーチファンドの定着可能性について考察を深めていきます。
基礎ワークショップB代表
研究課題:「組織アンラーニングの阻害メカニズム」
本研究は、なぜ企業は変革の必要性を認識していながらも変われず衰退してしまうのか、その背後にある組織内の力学を明らかにします。組織が環境変化に適応するためにはアンラーニング(=古い価値観やスキル、既存の成功論理や前提を手放すこと)が不可欠であり、これに失敗すると変化に対応できず衰退につながると考えられます。既存研究ではアンラーニングの成否を主に認知の側面から捉えてきましたが、本研究では、既存知識の受益者層との利害対立によって阻害され得る政治的プロセスとして捉え、転換の必要性を認識していても変われない現象の解明を試みます。実在した企業の事例研究を通じて、経営者が変革の必要性を認識していたにもかかわらず事業構造を変えることができず、最終的に解散に至った経緯を、組織内史料に基づいて解明します。
基礎ワークショップC代表
研究課題:「ショールーミング行動を生むブランド体験の連鎖-オンライン購買に至る意思決定プロセスの探索-」
基礎ワークショップD代表
研究課題:「人的資本開示における『投資積極度』の企業価値関連性の考察」
日本では2023年に有価証券報告書において人的資本の情報開示が義務化されました。組織論における開示行動の研究によれば、単なる規制対応として形式的に最低限の記述を行う企業と、将来の競争優位の源泉として戦略的かつ実質的に人的資本へ投資し、それを積極的に開示する企業との間には質的な差異が存在するとされています。本研究では、日本企業において、人的資本開示における「戦略的な積極度」が企業価値(Tobin's Q)に与える影響を明らかにしていきます。具体的には、有価証券報告書における人的資本に関する考え方および取組みの記述の具体性や投資への積極性についてテキストマイニングを用いて分析し、「戦略的記述の密度(人的資本投資積極度)」が高い企業ほど、Tobin's Qが高いこと、反面、「義務的記述の密度」はTobin's Qに対して有意な影響を与えないことを検証していきます。
*Tobin'sQ:企業の市場価値を資本の再取得価格で割ったもの。q値が1よりも大きい場合は、企業が新たな投資を行うことでさらに市場価値を高めることが期待できる。
基礎ワークショップE代表
研究課題:「広告は企業価値向上に有効か?-日本のB2B企業4社を対象としたVAR分析-」
企業にとって広告費は「販売管理費(費用)」として売上増加効果で評価されていますが、海外のある先行研究では、広告支出が「企業価値」に与える影響を、売上・利益を介した間接効果と、ブランド・投資家心理を通じた直接効果の"二重の経路"として定量的に検証し、両方の効果が確認されたという例があります。その研究では、PCやスポーツ用品というB2Cが事例とされていましたが、本研究では、日本企業を例とし、特に広告の売上増への直結性が見えにくいと考えられるB2B企業について考察します。調査ではB2B企業4社について、広告宣伝費と売上高、Torbin's Qを主な変数として、広告費からの間接・直接効果の有無を過去7-15年分のデータで分析しました。いずれも一定の有意な効果は見られたものの、結果は一様ではなかったため、今後はサンプル企業の拡大や、広告メッセージによる効果の違いなども検討する予定です。
基礎ワークショップF代表
研究課題:不確実性下における意思決定と「納得」のデザイン-信用財としての占いにおけるPlausibilityの形成と支払い意思のメカニズム-
日本の占い市場は関連分野を含めると約1兆円規模に達します。対面のほか、電話やメール・チャット、Webの占いサービスなど形態はさまざまですが、多くの利用者は「必ずしも当たらない」「科学的ではない」と認識しながらも、時には高額な対価を支払っています。本研究では、利用者が占いサービスのいかなる側面に価値を見出し、どのようなメカニズムによって支払い行動へと至るのかを探ります。占いを単なる「予測情報の提供」としてではなく、不確実性に対処するための「センスメイキング(意味付け)支援サービス」として捉え直し、顧客が情報の「正確さ」ではなく、サービスのどの側面に価値を見出しているのか、また対面占いの「場の空気」が捨象されるオンライン占いではどのように価値が形成されるかを分析していきます。