HUB-SBA MAGAZINE

2025年度 経営管理プログラム導入ワークショップの報告会が行われました

2025年09月09日

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7月19日、本学千代田キャンパスの大講義室にて、一橋ビジネススクール 経営管理プログラム修士1年生による、導入ワークショップ報告会が行われました。この報告会は、導入ワークショップの最終回の授業として開催されるもので、1年生全員が参加し、ワークショップ各クラスの代表者による成果発表が行われます。経営管理プログラムでは、修士1年、2年を通じてワークショップが必修となっており、この報告会では、半年間の研究を踏まえて、具体的な事象に関する分析の報告や今後の研究テーマ案についてのプレゼンテーションが行われました。


導入ワークショップA(担当教員:佐々木将人准教授)クラス代表
研究課題:スタートアップの成長フェーズと意思決定の因果関係―ソーシャルメディアの著作権対応を事例にしたGreinerモデル、制度起業家理論での考察―

ある経済ニュースのソーシャルメディアによる著作権対応において、創業当時と成長後では異なる判断となったことを事例として、既存の制度に挑戦する「制度起業家」としての行動と、組織の成長に伴う変化の関係を解き明かし、それが意思決定の変容にどのような影響を及ぼすかを検証したいと考えています。組織成長については、組織の年齢と規模に準じてリーダーシップやガバナンスの在り方が変化するというGreinerの成長段階*1モデルを用い、創業からの方針の変化を分析。経営陣や関係者へのインタビューや報道等の二次資料の調査と合わせて、制度的起業家による意思決定行動の研究を進めていきます。

*1 Greinerの成長段階:米国の経営学者ラリー・E・グレイナー氏による理論。企業の成長を5段階に分類し、各段階での危機と次の段階への成長のメカニズムを示したもの

導入ワークショップB(担当教員:西野和美教授)クラス代表
研究課題:データサイエンスを活用したデータドリブン経営実践のための組織変革とロードマップの探求

日本では多くの企業においてデジタルトランスフォーメーション(DX)は「ツールの導入」に留まり、ビジネスモデルを変える「変革」には至っていないという課題意識があります。本研究を通じてDX推進のための組織変革の方法とロードマップを明らかにしたいと考えています。データドリブン経営の達成には、基盤となる「システム・データ」に加え「組織変革」「組織文化」という3つの要素が相互に連携しながら一体となって機能する状態が不可欠であるという初期仮説を立て、それぞれデータ成熟度指標*2、変革の8段階フレームワーク*3、SECIモデル*4を援用し、実際の企業2社について分析。仮説を裏付ける結果が得られたので、今後は他の事例研究を通じて仮説の検証・精緻化を進めていきます。

*2 データ成熟度指標:情報処理推進機構(IPA)が規定するデータ活用能力を5段階で評価する指標

*3 変革の8段階フレームワーク:ジョン P. コッター ハーバード大学名誉教授による理論。企業が変革を進める上で陥る8つの落とし穴に対して、打ち手となる活動を対応させたフレームワーク

*4 SECIモデル:故野中郁次郎 本学名誉教授らによる理論。組織の中で知識がどのように生まれ成長し、共有されるかを説明するとともに、「暗黙知」と「形式知」の2種類の知識の相互作用に着目し、知識創造プロセスを解明した学説

導入ワークショップC(担当教員:松井剛教授)クラス代表
研究課題:ミドル・マネジメントによる〈多層ハイブリッド文化〉設計とイノベーション成果-大企業の新規事業プロジェクトに対する質的比較分析-

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活発な質疑応答

産業資本がモノから情報・サービス・知識へと移るのに伴い、価値創造の主体が組織から個人へと変化しています。イノベーション実現のための組織マネジメントとして個人の創造性と起業家活動に注目しており、中でも今回は企業内起業家としてのミドル・マネジメントに焦点を当てて考察しました。先行研究では、組織文化、事業発展の時間軸、リーダーシップスタイルという3つの軸があり、相互に関連付けた研究も見られますが、3軸すべてを多層的に組み合わせた研究は見当たりません。本研究では、3軸の組み合わせによる新たな理論的フレームを提示することを目指します。企業の新規事業責任者20名へのヒアリング調査を既に行っており、今後その分析を進めていきます。

導入ワークショップD(担当教員:高須悠介准教授)クラス代表
研究課題: 車両・コネクテッドアライアンスの同時展開が引き起こす課題と影響:自己決定理論を用いた現場の自律性と貢献実感への影響分析

自動車産業では、異なるメーカーが共通車体を使用する車両アライアンスを本社が進める一方、その車両に搭載する通信機能を利用したコネクテッドサービスは、各国の規制やニーズに合わせるため現地法人が主体となるという二重構造があります。共通車体でありながら差別化したサービス体験の提供をするという難しさがあり、2つのアライアンスの構造的関係が現地法人のモチベーションに与える影響について、ある自動車メーカーの実証分析を通じて解明します。これまでのアライアンス研究では、企業間の戦略整合性に注目したものはありますが、組織構造のミクロな影響に焦点を当てた研究は限定的であり、本研究を通じてアライアンス研究の新しい切り口を考えます。

導入ワークショップE(担当教員:三隅隆司教授)クラス代表
研究課題:CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)の活動目的における戦略的な成果と財務的な成果の定義について

コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)は、2010年代半ば以降多く設立されましたが、最近ではトーンダウンしています。企業が財務リターン以外に、本業への貢献を示す戦略リターンを得られていないと感じていることが背景にあると考えられます。ただし、本研究では、リターンはすべて財務的な価値として認識できるものとし、財務リターンの中に戦略的要素も包含されるものと整理します。その上で、CVCが上手くいかないと感じるのは、戦略リターンを上げるのに時間がかかるからではないかと考えています。そこで、時間を短縮する手段として「スイングバイIPO」という手法に注目しています。ベンチャーが早期に会社を売却し、その後IPOを狙うというもので、今後、この手法の可能性を探っていきます。

導入ワークショップF(担当教員:鎌田裕美教授)クラス代表
研究課題:なぜサービス業は事業多角化に積極的ではないのか

日本では、製造業などにおいて事業多角化が活発に行われている一方で、サービス産業では積極的に行われていません。そもそもサービス業は、労働集約型で規模の経済が発揮しにくく、加えて参入障壁が低いため、事業の多角化とその継続が難しいと考えられます。しかし、例えば宿泊業において、アクティビティの体験消費サービスや家事代行・清掃サービスの提供といった成功事例があります。そこで、「人材」に注目し、サービス企業の人材が持つナレッジやスキルが競争優位となり、しかも人材育成に時間がかかることによる優位性の持続も可能ではないか、と考えています。今後、人材資源の活用によって多角化を実現できる可能性について研究を進めていきます。

 

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