HUB-SBA MAGAZINE

実務で得た経験を一度棚卸して、理論を学ぶ

2025年07月10日

野口 大湖さん

2024年4月入学
大手サービス企業勤務
野口 大湖さん

実務で得た経験を棚卸

私は、大手サービス企業で有償のアドバイザリー部門に所属し、顧客企業の事業企画から営業やマーケティングといった各機能領域に渡る広範なテーマについて、お客様と一緒に課題解決を図る支援を行っています。以前勤めていた外資系のコンサルティングファームでも同じようにアドバイザリー業務を行っており、顧客はメーカーや小売、サービスなど業種も多様でした。以前のコンサルティングファームも現在のサービス企業もグローバルに事業展開しており、各国で蓄積されたさまざまなケースのナレッジが豊富にあるため、アドバイザリー業務はそうした各種ナレッジを活用しながら業務を遂行することができます。しかし、そのナレッジがなぜこの経営課題に対して有効なのかということを理論的に説明することがなかなかできず、個別のケースを積み重ねる日々でした。そうした中、これまで実務で得た経験を一度棚卸して、振り返りを行いたいと思い、MBAで理論を学ぶことにしました。

一橋ビジネススクールを選んだ理由は、経営理論やフレームワークを学び、それを現実の状況に適用し、その結果を再び理論にフィードバックして洞察を深める学習方法である「理論と現実の往復運動」を教育方針としているからです。一般的にMBAに対しては「頭でっかち」というイメージを持つ人もいますが、自分はそうはならないと強く意識していましたし、一方で大学院に通う以上は実務から得ることが難しい学術的な知見や研究も大切にしたいと思っていました。他大学のMBAも検討しましたが、一橋の「理論と現実」のバランスが決め手となりました。

経営のレベルでマーケティングや技術を捉え直す

MBAの1年目に受けた講義で印象に残っているのは、一つは上原渉先生(経営管理研究科教授)の「マーケティング」です。この講義では、ターゲット層の特定やコミュニケーション手法といった実務ではなく、経営にとってのブランド価値や、組織とマーケティングのあり方といった一段上位の視点でマーケティングを捉え直す機会をいただきました。もう一つは、西野和美先生(経営管理研究科教授)の「テクノロジーマネジメント」です。企業が持つテクノロジーには可視化できない情報技術もあれば、蓄積されたノウハウ的なものもある中で、改めてテクノロジーの定義を考え直し、経営の中での役割を考えるという講義でした。

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ワークショップで活発に議論(右列奥が野口さん)

いずれも経営のレベルでマーケティングや技術を捉え直すもので、実務寄りであった自分にとってはとても新鮮でしたし、前日の講義で学んだことが翌日の業務でのアウトプットにつながる、まさに「理論と現実の往復運動」を実践しています。

ワークショップでは、少人数でそれぞれの研究テーマを議論しますが、中には専門性が高くて業種・職種に馴染みがないと理解できないようなこともあります。そうした時には、担当教員の上原先生が、議論の抽象度を上げたり汎用化して、全員が議論に参加できるように促していただけるので、いつも活発な意見交換ができています。

研究テーマ~新技術の活用に後れを取る企業をなくす

現在研究テーマとしているのは、世界で急成長する生成AIについて日本では未導入の企業が少なくない現状に関して、イノベーター理論を用いてラガード層として分析するというものです。イノベーター理論は、米国の社会学者エベレット・M・ロジャース教授が提唱した理論で、その中で「ラガード」は新たな技術やサービスの受容が他の層よりも遅れる、またはそれを拒む保守層です。生成AIについては、それを用い生産性の向上を中心に実際の効果を創出できている企業と、そうでない企業の明暗がはっきりしてきたように思っています。生成AIを中心とした技術活用における企業変革は、そう遠くない未来、日本の実質GDPにも影響を及ぼすと言われている中で、技術活用に後れを取る企業をなくし、企業価値向上をはじめ、最終的には国力向上に貢献したいと考えています。

次は自身で経営を実践してみたい

今後は、引き続き「理論と現実の往復運動」をしながら学びを深めていき、修了後は経営そのものに携わる機会があれば、積極的にチャレンジしていきたいと思っています。これまで、アドバイザリーとしてさまざまなお客様の経営課題の解決を行ってきました。今回、改めて経営に関する理論を学び、次は自身で実践してみたいと考えるようになりました。そして、会社の成長に寄与することで、社会に貢献できればと思っています。

MBAでは、実務だけでは得られない学びがありますし、さまざまな業種、職種で活躍をされている優秀な仲間たちとの出会いはかけがえのないものです。仕事と学業との両立は簡単なものではありませんが、少しでも迷っている方がいらっしゃれば、思い切ってチャレンジしてほしいですね。

(2025年7月)

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