HUB-SBA MAGAZINE

日本の製造業の活性化に貢献したい

2025年05月07日

辻 雄一郎さん

2025年3月修了
食品メーカー勤務
辻 雄一郎さん

MBAか、MOTか

私は、食品メーカーに研究開発職として入社し、今年で25年目を迎え、現在は研究所で室長を務めています。これまで管理職として経営や組織について独学で勉強してきたのですが、一度体系立てて学んでみたいと思っていたので、2年前に海外勤務から帰任したタイミングで大学院に挑戦することにしました。最初はMBA(経営学修士)とMOT(Management of Technology, 技術経営修士号)のどちらにするか悩んだのですが、大学院選びをする中で夜間コースがあることと、質の高さを条件に絞っていったところ、一橋ともう一つのMBAが選択肢として残りました。もう一つのMBAは、起業に重点が置かれていて、かつ大人数だったのですが、私としては企業経営を多角的に学びたいという思いがありましたし、60名くらいの同期であれば全員と親しくなれると思ったことが決め手となり、一橋ビジネススクールを選びました。

日本の製造業におけるイノベーションに成功する研究開発戦略

在学中の研究テーマは、「日本の製造業におけるイノベーションに成功する研究開発戦略」で、日本企業の成功事例に学ぶというものでした。対象として選んだ企業は、優れたイノベーション戦略を持ち、そして高い収益性を得ている企業を表彰するポーター賞の受賞企業の中から製造業約20社を抽出して調べました。手法としては、同じく優れた製造業を表彰する大河内賞*受賞企業を対象とした研究が一橋大学には既にあったので、それを参考にしました。ただし、ポーター賞は収益性も評価対象としているため、それを研究の新規性として分析を進めました。対象の20数社について、まずは有価証券報告書やアニュアルレポート、それぞれの会社について研究された論文を1週間に2社ずつと決めて調べ、加えて数社に実際に話を聞きに行きました。

*大河内賞:生産工学、生産技術、生産システムの研究並びに実施等に関する日本の業績で、学術の進歩と産業の発展に大きく貢献した顕著な業績を表彰するもの

近年は、オープンイノベーションにより企業が外部の力を取り入れるケースも多く見られますが、私が調べたポーター賞を受賞した製造業の例では、研究開発は自社で行っている企業が殆どでした。また、製品のフェーズによる違いがあり、特に研究の立上げ期では自社での企画と技術開発が重要でした。一方、製品の拡大期でも、お客様の声など外部意見を取り入れつつ、しかし研究開発はやはり自社で行う方が良いということが分かりました。加えて、コア技術と周辺技術に分けてみると、コア技術を自社で確立していることが重要であることも明らかとなりました。以上の結果から、日本の製造業にとって有意義な示唆が得られたと思っています。

MBAでの学びを自社のチームへ、博士後期課程へ、そして日本の製造業のために生かす

MBAでの授業ではグループワークも多く、さまざまな業種から色々な年代の仲間が集まって行う議論はとても楽しく、勉強になりました。それまでは自分の経験や独学に頼っていましたが、社外の方々の知識や経験を聞くことで、思いもよらない発想ができることがありました。これからも同期とのつながりを通じて、そうしたリアルなインプットを大切にしたいと思います。また、私の研究チームに対しても、多様な視点をチームの力に生かすマネジメントを実践していきたいと思っています。

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ワークショップの仲間たち(前列右から4人目が
佐々木将人先生、後列右から2人目が辻さん)

2年間のMBAにおいて、理論についてはある程度学ぶことができましたし、これまで経験を基にやってきたことが間違いではなかったと確認できたのは収穫でした。さらにワークショップレポートの執筆を通じて、自身のテーマである日本の製造業についての研究をもっと追及していきたいと思うようになり、この春からは本学経営管理研究科経営管理専攻の博士後期課程イノベーション・マネジメント・プログラムに進むことにしました。

これからのキャリアとしては、自社だけではなく、日本の製造業のために役に立つことをしていきたいと考えています。これまで海外勤務が長く、外から日本を見ると、日本の製造業は元気がないと思っていました。イノベーション・マネジメント・プログラムにおいて、技術経営の研究を進め、日本企業への示唆となる成果を出すことを目指します。また最近の研究開発では、自社だけではなく外部と連携して行うことが多くなっていますので、そうした活動を通じて日本全体としての研究開発の強化に貢献できればと願っています。

楽しければ、時間は「作れる」

同期の仲間は皆さん向学心が高く、彼らとの議論はいつもとても楽しく感じていたので、在学中は一度も休むことはありませんでした。働きながらMBAを取得するというと、時間が足りないことを不安に思う人も多いと思いますが、何とかなるものです。時間は「作る」ものですし、楽しければ「作れる」ので、迷わずチャレンジしてほしいですね。

(2025年5月)

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