HUB-SBA MAGAZINE

2024年度 経営管理プログラム基礎ワークショップの報告会が行われました

2025年03月06日

昨年12月21日、本学千代田キャンパスの大講義室にて、経営管理プログラム修士1年生による基礎ワークショップ報告会が行われました。このワークショップは、春夏学期の導入ワークショップに続いて行われるもので、この日の報告会では、修士1年全員が出席する中、各ワークショップの代表者がこれまでの研究成果を報告しました。日々の仕事の中で生じる課題や問題意識と、講義やワークショップで学ぶ理論や方法論を何度も往復しながら進めてきた研究の成果です。

経営管理プログラムでは、修士2年間を通じてワークショップが必修科目となっており、1年次の導入および基礎ワークショップでの学びを基に、2年次のワークショップでは1年間を通じて個人単位での研究を進め、最終成果として学位論文に相当するワークショップレポートを提出します。


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基礎ワークショップAクラス代表
研究課題:「越境による心理的資本形成のメカニズム分析」

近年、従業員の心理的資本に関する要素が、従業員個人の幸せといった観点だけではなく、企業の業績向上を実現する重要な変数として注目されるようになってきています。心理的資本には特に自分自身への自信につながる「自己効力感」の影響が大きく、それには「達成体験」が重要な要素となります。中でも、出向や転職など大きく職場環境が変わる「越境」を行った場合こそ心理的資本が拡大するという仮説を立て研究を進めています。これまでに越境経験者に対して、業務内容や勤務地など越境の要素と心理面への影響度合いをヒアリングしてきました。今後は、自社等の社員にアンケートを実施し、どの要素によるインパクトが大きいかを定量分析していく計画です。

基礎ワークショップBクラス代表
研究課題:「現場主導型不正のメカニズム解明」

大企業による不正が後を絶たない中、経営陣からの指示がないのに、現場が自主的に不正を行なうことがあるのは不思議なことです。研究の対象とした企業では、2008年から会計不正が繰り返されました。そこでは現場の人々は、設定された管理会計の指標に従っていただけでしたが、実はそうした指標が、組織に貢献すべきという心理を生んだり、不正を監視するコミュニケーションを分断させた恐れがあります。管理会計の指標は、人への影響力行使のシステムであり、従業員の行動を誘導する強力なツールとなることで、意図せざる不正を招く危険があるのです。今後、新聞や雑誌、書籍などの資料を分析し、管理会計の指標による影響やプレッシャーが、「性善」ではあるが、「性弱」な現場の人々に、意図せざる不正を誘発するメカニズムをさぐります。

基礎ワークショップCクラス代表
研究課題:「『対話的鑑賞』の知覚価値予測能評価への活用検討」

製品価値を考える上で消費者が知覚する価値「知覚価値」が重要ですが、中長期で研究テーマを管理する研究開発においては将来の知覚価値を正確に予想することが、研究の成否と密接にかかわってくると考えます。そのため、新製品開発においては、マーケティングメンバーによる市場情報と、R&Dメンバーによる技術情報を共に最適なバランスで組み合わせることが重要です。そこで、アートの分野において価値のわからない絵画に対し、他人の感想を聞くことで自分の視点を更新する「対話型鑑賞法」という手法を用いてマーケティングとR&Dのメンバー間のコミュニケーションを図ることが有効と考えており、今後、自社の社内ボランティアを通じて実際に対話を行うことを計画しています。

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活発な質疑応答

基礎ワークショップDクラス代表
研究課題:「デジタルサービス(PCゲーム)の普及モデルに関する研究」

自分自身がゲーマー向けのデジタルサービスを開発した際に、SNSでバズったものの人気が長続きしなかったという経験から、新デジタルサービスに関してより信頼性のあるユーザ数予測について研究しています。具体的には、米国のPCゲーム配信プラットフォームである「Steam」でユーザ数増減データを正確に収集するとともに、約4.3億人のユーザ数を誇るゲーム好きの巨大掲示板口コミサイト「Reddit」のテキスト解析を行います。これにより、実際のコミュニティの反応データから新デジタルサービスのユーザ数増減を正確に予測することを目指します。本研究を通じて、実務面では収益計画をより正確に立てられるというメリットが見込まれ、学術的には普及メカニズムの解明に事例研究の積み上げとして貢献することが期待できます。

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基礎ワークショップEクラス代表
研究課題:「人的資本に対する投資とそのリターンに関する分析」

人的資本への投資については、リスキリングを通じたスキルアップや能力開発、福利厚生などが主たる論点として挙げられていますが、実は投資すべき対象は人件費そのものなのではないかと考えています。本研究では、人的資本支出と株主利益はトレード・オフの関係ではなく、トレード・オンの関係にあることを示していきます。企業が投資判断に用いるトービンのq*理論を用い、企業の有形資産と無形資産に加え、人件費の要素を考慮して人的資本を含めて算出。過去25年間の上場企業データを用い、分析として人的資本インテンシティの高いグループ、業界別分析、時代間分析なども実施する計画です。人的資本投資と中長期の株主価値増大について経営者にとってイメージのしやすい指標で計算することで、理論と実務の橋渡しの役割を果たしたいと考えています。

*トービンのq:企業の市場価値を資本の再取得価格で割ったもの。q値が1よりも大きい場合は、企業が新たな投資を行うことでさらに市場価値を高めることが期待できる。

基礎ワークショップFクラス代表
研究課題:「普及理論に基づく地域観光イノベーションの考察~サウナツーリズムの分析を通じて」

日本では長年、ホスピタリティ産業の生産性の低さが問題視されており、新たなイノベーションによる生産性向上と利益創出が求められています。自分自身の業務上の経験として、あるホテルがサウナ改修により集客効果を得た事例がありました。これは、サウナを地域観光資源として「新結合」させ、顧客がサウナを目的に旅行・行動するよう促すことで新たな観光需要を創出したもので、ホスピタリティ産業における地域観光のイノベーションの一例と言えます。そこで、サウナツーリズム初期の導入者にインタビューを行い、導入プロセスや経営者に共通する要素を解明していく計画です。この研究を通じて、次なる地域観光イノベーションの導入モデルを提示していくことを目指します。

軽部大教授からのコメント

来年度、皆さんが修士2年次において進められるワークショップレポートの研究テーマの設定には、一方で現実とあるべき姿とのギャップに注目し、他方で既存研究でまだ明らかにされていない未解決の研究課題とは何かを意識すると良い研究になると思います。また、分析したい事柄に適した分析手法を選択することが大切です。レポート執筆においては、調査の結果を記述するだけでは不十分で、結果の多面的な分析が不可欠です。自身が検証したい仮説だけではなく、対抗仮説を意識して考察を進めるのは有効な研究手法の一つです。さらに、結論を導く際には、誰に向けての研究かということを明らかにすると、全体の主張がより明確になるはずです。皆さんは日頃業務に携わりながら研究を行うこととなりますが、自分の日常業務から敢えて距離を置いたテーマの方が、のちに仕事に生かせるのではないかと思います。健闘を期待しています。

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