HUB-SBA MAGAZINE

持続可能な銀行システムに関するコーポレートファイナンス国際コンファレンス開催

2024年10月07日

8月2日、本学佐野書院において、みずほ証券寄付講義のご支援の下、Darla Moore School of Business, University of South Carolina と本学が共催する第7回コーポレートファイナンス国際コンファレンス が開催されました。今回は、「持続可能な銀行システム:ガバナンス、規制、イノベーションの役割」をテーマとして、参加者による活発なディスカッションが行われました。

 

第1セッション:税金、地球温暖化 / Chairperson: Thorsten Beck氏(European University Institute)

<税金と銀行の流動性創出>
プレゼンター:John Wilson氏(University of St Andrews)

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John Wilson氏の研究では、税金が銀行の流動性創出に与える影響について、東京の銀行税を題材として調査しました。東京の銀行税は、東京都内で事業を展開する大手商業銀行の粗利益に課されたもので、銀行のみを対象とする税金を取り上げることで、非金融企業も含めた税制を調査対象とした先行研究よりも、銀行の流動性と税との関係をより識別しやすくなります。考察の結果、銀行の利益への課税は流動性の創出を有意に減少させることが分かりました。また、銀行は長期融資から短期的な国債保有へとシフトする傾向が見られ、課税により資本やリスク管理が毀損されるものと考えられます。これに対し、Jungwon Suh氏(Sungkyunkwan University)は、東京銀行税は徴収した額をのちに返還しているので、返還後の流動性も調査することでより有意義な研究になるとコメントしました。

<銀行の地球温暖化対策や環境リスクの認識は預金者に評価されるか>
プレゼンター:John W. Goodell氏(University of Akron)

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John W. Goodell氏は、世界104カ国に本店を置く銀行539行をサンプルとして、銀行の気候変動リスクに対する認識と預金残高の関係を調査しました。2015年のパリ協定以降、預金者は環境へのリスクに敏感となり、積極的に地球温暖化対策に取り組んだ銀行ほど預金残高を増加させていることが確認されました。また、銀行による地球温暖化対策の認知度と預金残高の関係は、国による監督制度や銀行の集中度合い、さらに銀行の規模によって変化しますが、預金金利には影響されないことも分かりました。これに対し、内田交謹氏(早稲田大学)は、預金者の関心は銀行自身の地球温暖化対策なのか、銀行が提供するグリーン商品なのか、さらに研究の余地があるとコメントしました。

 

第2セッション:ソーシャル・キャピタルと銀行株価の動向 / Chairperson: Yongtae Kim氏(Santa Clara University)

<住宅ローン:ソーシャル・キャピタルによる住宅ローンの承認や返済への影響>
プレゼンター:Sadok El Ghoul氏(University of Alberta)

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Sadok El Ghoul氏は、ソーシャル・キャピタル*が、その地域の住宅ローンの承認率や住宅ローンの条件、その後の返済実績にプラスの影響を与えることを明らかにしました。調査では、ソーシャル・キャピタルが住民同士の良好な対人関係を生むことにより住宅ローンの信用を形成していることが分かった一方で、自動化された住宅ローン審査や、借り手とのやり取りが最小限のフィンテックではソーシャル・キャピタルによる影響が見られませんでした。この背景には、ソーシャル・キャピタルが貸し手の審査と監視の強化に寄与するとともに、債務不履行となった場合の借り手が被る社会的コストを高めるということがあると考えられます。これに対し、小野有人氏(中央大学)は、高いソーシャル・キャピタルと貸し手の情報収集力の相関性をさらに深掘りすると有意義であると指摘しました。

*ソーシャル・キャピタル:社会関係資本。社会における信頼関係や規範、ネットワークなどを資源として捉える概念

<銀行株の変則的な動き、ミスプライシング、FEDによる介入>
プレゼンター:Luca Del Viva氏(ESADE Business School, Ramon Llull University)

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Luca Del Viva氏は、銀行株のリターンの決定要因について研究する中で、銀行の株価の変動要因としてミスプライシング*1に注目しました。特に、各銀行による発表案件だけではなく、連邦準備制度理事会(FRB)当局者の発言による市場のセンチメントが銀行株のミスプライシングに影響を与えることを明らかにしました。銀行株のリターンを左右するメカニズムに光を当てることで、本研究は、バーゼルIII*2によって導入された銀行の資本強化が今後どのように金融情勢に影響するかを理解するための貴重な考察となりえます。これに対し、白須洋子氏(青山学院大学)は、ミスプライシングへの着目は新鮮であるとしつつ、銀行には投資銀行や商業銀行、地方銀行などさまざまな業態があるので、それらを分けて考える必要があるのではないかとコメントしました。

*1 ミスプライシング:不正確な情報や情報不足により株価を過大あるいは過少評価すること
*2 バーゼルⅢ:国際的に活動する銀行の自己資本比率や流動性比率等に関する国際統一基準

 

基調講演:情報共有、ファイナンスへのアクセス、借入契約、労働市場について / Thorsten Beck氏(European University Institute)

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Thorsten Beck氏は、多くの国で中小企業は金融機関との取引において劣後する傾向がある中で、個人や企業の信用情報を一元管理するクレジットレジストリの導入が中小企業のファイナンスへのアクセスを向上させるとし、2012年にブラジルで発効したクレジットレジストリによる影響を調査しました。その結果、クレジットレジストリにより、中小企業の信用情報の入手が容易となったことで、中小企業による銀行からの資金調達が拡大していることが判明。資金の融資サイドは信用情報を基にリスク度合いにより金利や担保など融資条件をきめ細かく設定し、一方、借りる側はより良い条件を求めて金融機関を選別するといった行動が観察されました。

 

第3セッション:日本におけるESG / Chairperson: 安田行宏教授(一橋大学経営管理研究科)

<企業の地球温暖化リスク、ESGポリシー、銀行融資:コロナ禍からのエビデンス>
プレゼンター:式見雅代氏(長崎大学)

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式見雅代氏は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行以降にグリーンファイナンスへの関心が高まったとして、流行の始まりとその翌年における日本の企業と銀行の融資状況を調査し、この時期に銀行がCO2高排出企業への融資を減少させたことを明らかにしました。しかし一方で、CO2高排出ながらもESG取組みを行いつつ売上が減少した企業の中で、特に従来から多額の投資を行っていた企業に対しては、逆に融資を増加させたことも判明しました。また、銀行自身の自己資本比率や資本流動性によっても貸出行動に差があることが分かりました。これに対して、Eunjung Yeo氏(Chung-Ang University)は、本調査のユニークな視点を評価しつつ、銀行の融資判断は複雑であり、コロナ禍と地球温暖化対策との直接の関係性を抽出することの難しさについてコメントがありました。

<メインバンクとの関係性と企業のESGパフォーマンス:日本におけるエビデンス>
プレゼンター:Yongcuo Zhaxi氏(一橋大学経営管理研究科博士後期課程3年)

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Yongcuo Zhaxi氏は、銀行がメインバンクとして融資先の株式保有を一定程度まで認められている日本において、メインバンクと企業の関係と、企業のESGパフォーマンスについて検証しました。調査結果では、メインバンクが企業のESGパフォーマンスを促進する上で重要な役割を果たしていることが示され、中でも株主としての立場がより強い影響を与えていることが明らかになりました。他の先行研究では銀行と融資先の関係としての調査はありますが、本研究は、日本特有のメインバンクとしてローン保有と株式保有という二重所有の特性を踏まえた調査という点で他に例のない研究と言えます。これに対し、Yongtae Kim氏(Santa Clara University)は、ESGの中でもS(Social、社会性)については影響力が低いという調査結果に注目し、その背景の分析や、銀行が具体的にどのようなチャネルを使って事業会社に影響力を行使しているのかをさらに研究することが有意義であるとコメントしました。

 

第4セッション:債務整理、非公開化、配当政策/ Chairperson: Omrane Guedhami氏(University of South Carolina)

<中小企業の私的整理の分析>
プレゼンター:植杉威一郎教授(一橋大学経済研究所 経済制度・経済政策研究部門)

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植杉威一郎教授は、日本の中小企業における私的整理に関する詳細かつ包括的なデータセットを用いて、債務整理の特徴とその後の企業業績への影響を調査しました。その結果、債務再編のほとんどが債務返済の延期を伴う一方、債務超過を軽減するためのより抜本的な手段を取ることは少ないことが明らかになりました。また、営業黒字を確保している企業ほど、経営陣の責任を追及し、新しい社外役員を起用する傾向が強いこと、さらに抜本的な債務再編を実施した企業ほど、業績が回復したということが調査により分かりました。これに対し、Luca Del Viva氏(ESADE)は、本調査では私的整理を選択した企業を調査対象にしていますが、例えば、リスケとデット・エクイティスワップなど再生方法の違いも注目に値するとの意見を述べました。

<自分たちの意のままに: オーナーシップの集中と配当政策>
プレゼンター:Jungwon Suh氏(Sungkyunkwan University)

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Jungwon Suh氏は、支配者一族という形態ではない株式の集中保有、特に日本の上場企業に見られる法人株主による集中保有に注目し、それらの企業の配当政策を調査しました。その結果、支配的な法人株主は配当よりも利益の維持を重視するとともに、自社株買いには増配以上に反対する傾向があることが分かりました。また、資本支出においては、配当よりも投資に重きを置くことも明らかになりました。支配的な法人株主は、短期的な株主価値の向上を求める株主資本主義から企業を守る「古き衛兵」のごとき存在と言えます。これに対し、Min-Ming Wen教授(一橋大学経営管理研究科)は、さらなる研究として、支配的な法人株主と機関投資家という2つの対照的な株主グループが同一の企業の最終的な配当政策にどのように影響を及ぼしているかという点を明らかにすることにも期待すると述べました。

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