2024年10月23日
普段、研究に没頭していると、どうしても関連のない本を一冊じっくりと楽しむ時間を取るのが難しくなります。それでも、長い間私の心に残っている本の一つが、リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』です。ドーキンスは、遺伝子の伝播という視点から生命を捉えるように促してくれます。この視点は、一見すると冷徹な世界観を描いているように感じられるかもしれませんが、彼は協力や見せかけの利他主義についての鋭い洞察を示し、私たちに倫理的行動の基盤を再考する機会を与えてくれるのです。特に印象深いのは、ドーキンスが人間には遺伝的なプログラムを超越する力があると示唆している点です。この考えは、気候変動のようなグローバルな課題に対して、自己利益にとらわれない集団的な行動が解決策となり得ることを示唆しており、今の時代において特に強く響きます。『利己的な遺伝子』は、学際的な視点の大切さを教えてくれる一冊です。異なる分野からの洞察が最も深い発見をもたらすことを思い出させてくれ、進化生物学と倫理を結びつけながら、自己利益と協力の複雑な関係を新たに理解するための道筋を示しているのではないでしょうか。
【Information】一橋大学附属図書館
リチャード・ドーキンス [著];日高敏隆 [ほか] 訳(1991.2)
『「利己的な遺伝子」:進化を通じて倫理を再構築する』東京:紀伊國屋書店