HUB-SBA MAGAZINE

テーマ対談:世の中全体をより良くする流れを後押し/freeeの目指すダイバーシティ②

2024年07月04日

法人・個人事業主向けのクラウド型会計ソフトを提供しているフリー株式会社(以下、freee)は、アジア地域の「働きがいのある会社」ベストカンパニーに2年連続選出されています。今回は、本学経営管理研究科の西野和美教授、福地宏之准教授が、freeeのダイバーシティの取り組みについて、CEOの佐々木大輔 氏(本学商学部卒業)と常務執行役員・会計申告プロダクトCEO前村菜緒氏にお話を伺いました。


freeeの顧客は多様性にあふれている

佐々木さん

弊社では以前、男性、女性だけではなく性の多様性がある中で、トイレってどうやって使い分けるの?という問題がありました。今のオフィスはユニセックスのトイレがありますが、昔、小さいオフィスだった頃に揉めたりしたこともありました。とはいえ、まずは性の多様性があるということを認め、一緒に働く仲間がそれに共感しますというビジョンがあり、その中から誰かが引っ張っていくことで、問題は解決していくと考えています。

福地先生

話をお聞きしていると、freeeのダイバーシティやインクリュージョンは、マイノリティに対する差別や格差を是正するための取り組みとしてのアファーマティブ・アクション※4のような捉え方ではなくて、すごくポジティブなものと考えていらっしゃいますね。社員が居心地がよいと感じてくれて、アイデアやエネルギーがどんどん出てくる。そのための一つのアクションなのでしょうか。

前村さん

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freeeでは、スモールビジネスのお客様に対してインタビューをする機会を多く設けています。弊社のお客様は皆個性的で多様性にあふれています。ビジネスにおいても規模や目標設定も違っていますので、意見や要望も違っていて当たり前です。どんなお客様でも受け止める、多様性の中での働き方が合っているというスタッフがfreeeには多いのかなと思います。

佐々木さん

そういう意味でも、弊社ではビジネスでやるべきことや方向性が一致しているんだと思うんですね。多様性のある人たちが多彩な活動をしていることが面白いし、いろいろ好き勝手にしているなと(笑)。ですが、世の中には、ずっと変わらないままのコミュニティに閉じこもっている方がいいと思う人もいるわけで、そういう価値観の違いみたいなものも組織の中にあるのかなと思います。

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私たちは社会的、文化的な性としてのジェンダーに関してはまだまだ発展途上だと思うんですね。例えば、女性管理職の数値目標を置いていて、何故その差が生まれているかを部署ごとに説明してもらうと、理由となる隠れたバイアスが出てくるんです。女性管理職の割合を現状上げることができない理由とかも見えてきて、もしかしたらそのバイアスに縛られていたのかも知れない。じゃあ、どうやったら無理やり同じ比率にできるかと考えると、その結果を見てもっと面白い人事ができるという発想に繋がっていきます。もう少し引いた目線で、世の中全体について考えてみると、女性でキャリアの高い人の数が少ないというのは、女性の起業率が少ないというところにも関連していると思っています。女性に限らず男性が起業する観点でも、ライフステージによって起業自体が難しい理由がそこにはあります。例えばですが、子どもが2人いて、収入は男性の稼ぎのみというような家庭環境であれば、この男性の起業は簡単に決められないですよね。ですが一人で支えるのではなく、家庭を2本柱で支えるようになってくると、世の中全体でもイノベーションが進んでいくし、起業もしやすいし、転職もしやすい、そうした流動性的な経済ができていくんだと思います。こうした流れに皆が共感しているのかどうかというのが前提として大事で、そういう土壌がない中では、女性管理職の割合を上げるためにチェックリストを作って、数値目標を置いてやっていくという、やらされ感しかないかと思います。

福地先生

そうした目指すべきことや社内で決めたことを説明するのに、かなりの時間やエネルギーをかけていらっしゃるのですか。

佐々木さん

もちろんです。エネルギーを注いで、ちゃんとやらなければいけないことだと思っています。社内で新しい方針が出る度に、スタッフからはすごく質問が来ますね。創業して間もない頃には、今よりももっと組織が小さかったので、個々の意見に対してもちゃんと向き合って回答していました。一定期間そういうことを続けていくと、今度は今まで質問していた側の人たちが、新しく入ってきた人たちに対して積極的に向き合ってくれます。私から指示を出さなくても自然とやり始めてくれるんですね。結局、そういう対話って再生産して社風となっていくのだと思います。

西野先生

多様性の中で一緒にやっていくというのは、枠組みや施策でどうにかするというより、互いに理解しようと努力をし、話し合いを続けていくということから、なのでしょうね。

佐々木さん

少なくとも、社内で意見を言える環境にするということでしょうか。会社からの方針を受けて、自分の考えや思ったことが言えるというのが、まず大事なんだと思います。そこに蓋をしてしまうと、やりにくいなとしか思われないでしょう。

西野先生

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社員に対しては時間や手間をかけて説明し、会社としての共通の認識を持ってもらい、仲間として互いの多様性を認め合うということでしょうね。これはちょっと難しいことだという感じはしますが、社内で議論していろんな考え方も尊重し、話し合いを続けることが必要なんですね。大規模の企業ではなかなかできないことを、freeeではやってらっしゃるのかなと思いました。

前村さん

ダイバーシティだけではなく、仕事でも何かあったらすぐ言えるような関係を築きたいと思っています。

若い世代の女性経営層について

福地先生

前村さんの世代で、女性の経営層は少ないと思いますが、ご自身としてはどのように受け止めていらっしゃいますか。

前村さん

私はfreeeの環境に慣れすぎていて、そこに違和感はありません。ですが、チームの中には結構いろんなバイアスを感じています。例えば、一つの意見に対して女性と男性で受け取り方が違っていたりします。チームのリーダーを女性の優秀なスタッフに任せようとしたときに、男性スタッフから「任せて大丈夫かな」とか「負担になるんじゃないか」という意見が出ます。私から見ると全く問題はないのですが、女性側からも「私にはできる感じがしない」ということが多いんですね。男性は割と根拠もなく「できる気がする」という方が多くいるんですよ。そこの感じ方も全然違うので、一律に制度でこうしましょうということではないのかなと思ったりしています。やっぱり自分でもできると思えるには、ある程度近しい人が横で見ていたり、話を聞いたりして、「なんか自分でもできるのかも」と少しずつ思えるように、結構時間をかけ、コミュニケーションを取って、解決していかなければいけないのかなと思いますね。

西野先生

前村さんは執行役員でもありますが、メンターのように頼りにされているところもあるのではないですか。

前村さん

どうでしょうか。メンターと言うより、私と皆も同じだと受け止めてもらうほうがよいと思っています。普通に仲良しな同僚というか、何でも話せる仲間として見てもらいたいです。私もいろいろ悩みながら頑張っているよ、という姿を見て、「彼女でもできるんだから」と思ってもらえるのではないかと思います。完璧なロールモデルにはならないほうがいいと思っていますね。

福地先生

お話を聞かせて頂き、ありがとうございました。最後に、後輩に向けてのメッセージをお願いできますか。

佐々木さん

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人に対してオープンになると、それがおつりとして返ってくるのではないかと思います。結局、世の中には、いろんな人がいるというのは絶対当たり前なわけです。大学では、自分の仲のいい友だちとだけ付き合っていればいいかも知れないけれど、社会ではそうはいきません。就職先でも、自分で起業したとしても多様性があるわけです。もちろん一緒に働く仲間を選ぶこともできるかも知れませんが、選ぶことによる損失は大きいと思います。いろんな考え方にオープンでいるとか、面白いことを言う人だなと思うとか、結構自分が得るものも多いと思いますね。今はもう多様性にあふれた時代なので、そういうのを楽しんでみる。楽しめると面白いし、ビジネス的にも得るものが大きい気がしますね。

前村さん

学生時代はいろんなことを知って、触れることができるチャンスです。新しく何かやるというのはエネルギーを使うし、めんどくさいかも知れません。ですが、実際やってみなければわからない。いろいろやってみた結果、やっぱりめんどくさかった、というのも経験になりますし、それもいつか自分に返ってくると思います。

 

※1ガラスの天井:職場などで性別や人種などを理由に昇進を阻む、目に見えない制限の比喩

※2LGBTQ+に関する身分の多様性:男女だけではない性の多様性

※3アライ (Ally) :自らの特権を自覚したうえで、その特権を進んでリソースとしてLGBTQ+とその関連コミュニティの公正に向けた運動に活用し、これらの活動を支援する人

※4アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置):アメリカ合衆国において、長年にわたって差別を受けてきた黒人をはじめとする少数人種諸集団や女性に対して、経済的・社会的地位の改善、向上を目的に、連邦政府や地方自治体、民間企業、大学などが進めてきた差別是正のための積極的差別是正措置の総称。


プロフィール

フリー株式会社CEO
佐々木 大輔 氏

Googleで、日本およびアジア・パシフィック地域での中小企業向けのマーケティングチームを統括。 その後、2012年7月フリー株式会社を設立。 Google以前は博報堂、投資ファンドのCLSAキャピタルパートナーズにて投資アナリストを経て、レコメンドエンジンのスタートアップであるALBERTにてCFOと新規レコメンドエンジンの開発を兼任。 一橋大学商学部卒。専攻はデータサイエンス。 日経ビジネス 2013年日本のイノベーター30人 / 2014年日本の主役100人/2015 Forbes JAPAN 日本の起業家BEST10に選出。

フリー株式会社 常務執行役員 会計申告プロダクトCEO
前村 菜緒 氏

フリー株式会社創業期3名の頃にエンジニアインターンとして参画。その後広報、マーケティング、個人事業主向け事業、APIを中心としたプラットフォームなどの立ち上げを歴任。2022年7月から現職。 東京工業大学・大学院卒。趣味はゴルフ。

去る5月31日に春学期「特別講義(スタートアップと資本政策)」に、ゲスト講師として本学商学部の卒業生であるフリー株式会社CEO佐々木大輔氏にご登壇いただきました。当日は学生からの質疑に先輩が答えるような、カジュアルな雰囲気の中で展開されました。

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