2024年06月17日
2023年入学
半導体事業会社勤務
森井 孝則さん
2009年に新卒で入社後、いくつかの部署を経験した上で、グループ傘下にある半導体事業会社の経営戦略部門に異動しました。その中で調査・分析を担うマネージャーを務めています。私の役割は、受け身ではなく一歩先を行く論点を設定し、企画を立て、社内に変革を仕掛けていくことです。しかし、答えの分からない課題や、明確な定義ができない新たな事案に対して解決策を出していくためには、自分の経営に関する知識や、組織を動かす力が足りていないことを感じました。このままでは期待される役割を果たせないという危機感がMBAを目指した動機です。
一橋ビジネススクールを選んだのは、仕事と両立させるために夜間・土曜のコースがあったことが第一の理由です。また、社内には一橋大学で学んだ先輩や同僚が多く、良い評判を聞いていました。企業のエグゼクティブ向けの一橋大学財務リーダーシップ・プログラムに派遣されていた経営幹部が、学んだことを実務にうまく取り込んでいる様子を見ていたのも後押しとなりました。
入学前、自分には経営の知識が足りないと思っていたのですが、MBAでの1年が過ぎ、足りなかったものは知識ではなく、それを使いこなす力だということに気がつきました。授業で教わる知識自体は知っていても、表面的にしか捉えきれておらず、より深く思考することができていませんでした。入学して間もない頃に出された課題のレポートでは、会社での資料作りと同じようにパワーポイントで作成して提出してしまいました。パワーポイントの資料は、理論やロジックを表面的に関連づけてまとめるとそれなりの形になってしまいます。しかし、課題に求められていたのは、背後にある本質を掘り下げることであり、それを分かりやすく文章で伝える力を養うことでした。理論を現実のケースに合わせて応用し、一段目の現象面だけでなく、二段目以降の深層にある構造を明らかにすることの大切さを学びました。
授業で提出した課題レポートには先生方から丁寧にコメントをつけたフィードバックがあります。きめ細かい指導は一橋の伝統と聞いてはいましたが、これほどとは思っていませんでした。どのコメントも的確で気づきがあり、学習や研究を進める上でも大変役立っています。
1年次の経営戦略の授業で、B2B企業がリファレンスデザインやモジュール化などの手法を駆使して、自分たちの製品がより幅広い顧客に採用されることで、有利に展開しようとする戦略を学びました。この研究テーマを選んだのは、自分たちの製品が売れるような合理性を作り出す、鮮やかな戦略を目の当たりにして、私自身もこうした戦略を描けるようになりたいと思ったことがきっかけです。そのような視点で私の所属する半導体業界を見ると、他社のM&Aや研究開発の姿がこれまでとは違って感じられました。
研究では、半導体の微細加工に必要なEUV露光装置の検査装置を手がけるレーザーテック株式会社に焦点を当てようと考えています。同社は業界をリードする半導体受託製造最大手のTSMCや、世界最先端の微細加工装置を作り出すASMLとともに、この10年ほどで急成長してきました。どのように世界の大企業を相手に高い利益率を保ってビジネスができるようになったのか、同社の戦略を研究したいと考えています。
MBAには社会人5、6年目の人が多いというイメージを持っていたので、私の場合は少し遅いかなと思っていましたが、同期には20代から50代まで幅広い年齢層の人がいます。チャレンジするには遅いということはなく、経験に応じた学びがあると思います。実務を知っているからこそ「ここはそうはならない」という的確な判断ができたり、責任範囲が大きいので学びを職場にフィードバックした時のインパクトが大きくなるといった効用もあります。自分自身が必要性を感じたタイミングでチャレンジするのが良いと思います。
業務と家庭と学業の両立を心配される方もいると思います。私の場合も、入学前は毎日遅くまで残業をしていましたし、ちょうど子供が生まれるタイミングでもあったので、心配な気持ちもありました。しかし、MBAへの挑戦にあたり、やらなくて良いことはやらないとマインドセットを変えました。仕事や生活の中にあった曖昧なものを思い切ってやらないと決め、仕事では上司・同僚に協力を仰ぎ、家庭では妻に頭を下げながら、今ではなんとか回すことができています。やり切る力とやらない決断力、お願いする図々しさは、MBAで得られる副次的な能力かもしれません。まずはチャレンジしてみてほしいですね。
(2024年6月)