HUB-SBA MAGAZINE

経営管理プログラム修了者、小林純也さんの査読付き論文が「観光マネジメント・レビュー」に掲載

2024年05月15日

経営管理プログラムのホスピタリティ・マネジメント・プログラムを2023年3月に修了した小林純也さんが、MBAの修士論文にあたるワークショップレポートの研究をもとにした発展的な論文を「日本観光経営学会」に投稿し、査読付き論文として、今年3月に発行された学会誌「観光マネジメント・レビュー"Japan Tourism Management Review"」に掲載されました。論文は「旅館の提供サービスにおける経営者とスタッフとの認識のギャップ―旅館の組織内での要因に着目して―」というタイトルで、旅館のサービス提供において、旅館組織内の認識ギャップが生じる要因について研究をしています。MBA修了後も継続して研究を続けている小林さんに、論文投稿への思いやMBAでの学びについて伺いました。

日本観光経営学会 学会誌「観光マネジメント・レビュー"Japan Tourism Management Review"」
旅館の提供サービスにおける経営者とスタッフとの認識のギャップ
旅館の組織内での要因に着目して

株式会社JTB 資金チーム グループリーダー
小林 純也


――はじめにMBAで学ぼうと思ったきっかけについてお伺いします

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私はJTBで法人営業に携わり、12年間法人営業の担当者として現場でお客様と接してきました。お取引先の尊敬する経営者の方々と接し、経営に関する考え方に触れる中で、"JTBの社員が、JTBで働くことを心から誇りに思えるような会社にしたい"、そんな経営者になりたいと思うようになりました。しかし、今の延長線上には自身が経営者になる姿は見えてこない。自社の常識だけでなく、いろいろな視点で物事を考えられるような人間になりたい、これがMBA取得を目指したきっかけです。当社の社長は、"外の常識で揉まれて、外の常識で会社に価値をもたらすような人材になれ"と話しています。コロナ禍で会社が一番苦しかった時も、さまざまな議論はあったようですが、このMBAへの企業派遣の制度だけは残してくださり、私もここで経営を学ぶことができました。恐らく経営者の方はこの「外で揉まれること」に価値を感じて、会社が苦しい時でも投資してくださったのだと思います。今でもその意思決定をしていただいた経営者の皆さん、外で学ぶことに背中を押していただいた社員の皆さんには、感謝の気持ちで一杯です。外で得られた確からしく上質な「考え抜く力」を会社の中のいろいろな業務に当てはめていく、こういうことを真面目に考えられるような人材が増えると、会社やツーリズム産業全体の成長にも繋がっていくのだと思います。他には、旅行が大好きなので、世界中の旅行のファンを一人でも多く増やすこと、そしてJTBを今以上に真に社会に必要とされる会社にすること、この3つが私が生涯で成し遂げたい夢です。

――学部でも経営学を学ばれていたのでしょうか

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落語の高座にて

学部では、バイオインフォマティクス(生物情報科学)という細胞の配列について研究していて、経営とはまったく違いましたね。クラブは落研に所属していて、地方巡業をやっていました。例えば、全国の老人ホームや病院、小学校などにクラブの仲間で手分けして、受け入れをお願いする手紙を沢山書くんです。それで"来ていいよ"と言ってもらったところへ出向き、高座をやって、その施設に宿泊させていただくというのを学部の4年間ずっとやっていました。地方に行って温かく迎えていただいたり、施設の関係者の親戚中の人たちが集まって盛大にもてなしていただいたりと、人と人との温かい繋がりを通じて旅行がすごく好きになりました。旅行という仕事は地方を元気にすることができるとも考えており、これが今の仕事にも繋がっています。

――実務を12年経験してMBAへ、そこで得られた学びは何ですか

"背後にあるメカニズムをどうやって考えるか"ということについて、徹底して鍛えていただいた2年間だと思います。こうすれば上手くいくというモデルケースに安易に頼らずに、自分自身で論点を整理して解決法を考える習慣がついたこと、それが一番大きな学びだと思います。2年次に田村俊夫先生(経営管理研究科教授)が、「MBAは学ぶ方法を教える場所で、これから学びを続けるかどうかは皆さん次第です」ということをおっしゃられていて、修了式の時にも「今日だけは勉強しなくていい、でもMBAでの学びは続けなければすぐ習慣が抜けるから、必ず明日からまた続けてほしい」という言葉をいただいて、その言葉がずっと心の中にありました。修了後の4月から何をやろうかと考えていた時に、ワークショップ担当の鎌田裕美先生(経営管理研究科教授)より論文にチャレンジしてみてはとアドバイスをいただきました。仕事をしながらの研究と執筆は確かに大変でしたが、人生は一回きりなので、何かに一生懸命取り組みたいという思いがありました。鎌田先生には、手厚くご指導をいただいて無事に論文を書き上げることができました。

――今回の査読付きの論文についてお伺いします

この論文では、私が大好きな「旅館」について書いています。旅館にはさまざまなサービスがあって、受け手側にとって良いサービスも、そうでないサービスもあります。例えば、旅館が昔からおこなっている、女将や仲居さんが客室の中に入り、ご挨拶されるようなことなど、今の宿泊客にはあまり求められなくなってきていることは多くあります。宿泊客もスタッフも不要だと思っていても何故それが残ってしまうのか、という研究をしました。可能性として、まずは経営者が独りよがりで「それこそが一流の旅館の証」と思い込んでいるのではと考えました。先行研究を探して、インタビューをして、こういうことが原因なのではないかという仮説を導き出しました。旅館の先行研究はほとんどなくて、たくさんあるサービスギャップの先行研究から「ギャップモデル」というフレームを、旅館に当てはめるように少し変えて適用しました。インタビューでは勤務先の社名は出さずに、一橋MBAの学生の一人として、経営者と従業員の方々にお話を伺いました。その中で彼らが思っている本音部分をどうやって引き出すかということに苦労しました。ですが、学生の質問に対して、皆さんが長時間に渡り丁寧に答えてくださったので大変ありがたかったです。

今回の論文は、MBAの2年次に書いたワークショップレポートをベースにしていますが、テイストは仮説検証型から仮説導出型に変更しています。2万字という文字数の制限もあり、この投稿した論文では3つの仮説を出すところまでにしました。今後機会があればもう一度チャレンジして、仮説を検証するところまでできると、学びを続けることにもなりますし、良いのではないかなと思っています。

――最後に後輩へのメッセージをお願いします

一橋のMBAは本当に幸せな2年間であったと確信しています。なぜ幸せだったかというと、誠実で、勤勉で、そして真面目で真っすぐな心から尊敬できる62人の同期と、いろんな苦難や挫折を味わいながら共に過ごすことができたからです。こんな幸せな機会は二度とないような気がします。今MBAを考え始めている人も、自分が夜間のMBAで学業と仕事を両立できるのかなとか、チャレンジするのは仕事も忙しい中で大変だなとか、ためらうこともあると思うのですが、まずやってみてそこから考えればいいと思います。何もやらずにどうしようと不安になる必要はなくて、まずチャレンジをして、そこからやっていくということでいいのではないかとお伝えしたいです。

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