2024年05月08日
2024年3月修了
半導体向け素材メーカー勤務
鳥井 淳平さん
大学は農学部で農薬の研究をしており、現在の会社に入社後は研究職として半導体に使用する液剤を扱っていました。しかし、数年前にマーケティングに異動になり、畑違いの仕事を前にしてマーケティングや経営の勉強の必要性を強く感じました。また、一つの部署や会社のやり方だけではなく、世界に通用する共通言語として経営を学びたいという思いもありました。
さらに、自分が携わっている半導体産業について研究したいというのも動機の一つです。かつて日本の半導体産業は世界的に優位な立場にありましたが、現在はプレゼンスを失ってしまっています。「技術力は高かったが、経営の力で負けた」と分析する人もいます。こうした動向を自分なりに考察し、今後の日本の半導体産業はどうあるべきかを考えたいと思ったのです。
一橋のMBAは、千代田キャンパスが都心に位置して通いやすかったということと、特にイノベーションと経営について研究されている先生が多く在籍し、そうした先生方から学びたいと思い、選びました。また、当社の社長も一橋ビジネススクールのMBAプログラムに在籍していたことがあり、勧めてもらったというのも理由の一つです。
当初は、自社を題材にした事業戦略について考えようとしていたのですが、先生方からは、自分の業務に近いテーマを選ぶと、内情が見えすぎてしまい、大胆な戦略転換のアイデアが出しにくいこともある、と助言をいただきました。そこで、類似した他社を研究することとし、インテルの戦略転換をテーマとしました。
調査では、インテルに関する記事や論文を何十年もさかのぼり、分析しました。2年次のワークショップでは、2週間に一度、研究の進捗を発表するので、英文のものも含めて膨大な量を毎晩読み込んでいました。結果、見えてきたことは、たとえ競争優位のビジネスモデルを有していても、競合の動き次第でそれがすぐに陳腐化してしまう恐れがあるということです。そこでの学びは、自社の強みを明確にし、戦略上、何を社内に残し何を社外のリソースに任せるのか、見極めることの大切さです。
今担当している業務は、自社に最適なプロダクトポートフォリオを考えることで、得意ではない部分は外部委託やパートナーシップにより社外に出し、自社の強みを最大化するということを使命としています。まさに仕事に直結する学びをMBAで得られたと思っています。
グループワークでの同級生との議論はかけがえのない時間でした。平日の講義が終わったあと、深夜までディスカッションを続けたり、休みの日にも集まったりしていました。ワークショップでは、他のメンバーが持っている課題意識を聞けて、それがとても新鮮でした。例えば「なぜ日本のサラリーマンは勉強しないのか」といった、自分では思いもしなかったテーマを考えている人や、「個社ではなく業界全体として働く人たちに報いるべき」といった高い視座を持つ人もいて、大変刺激を受けました。
田村俊夫先生(経営管理研究科教授)が講義の中で、「勉強は、外部環境と自らのメンタルモデルのすり合わせである」とおっしゃっていたことが印象に残っています。つまり、自分が思っていることと外部環境のズレを修正していく作業が勉強であり、「分かった」と思ってしまうとそこで思考が止まってしまうので、微妙な食い違いを追求することが大切という意味です。
また、島本実先生(経営管理研究科教授)からは、「本質は何ですか」ということを何度も問われました。物事を表面的に捉えると、「どこかで見たパターン」としか考えられないけれども、違う角度でもう一段掘り下げてみると別の面が表れてくるということを教えていただきました。
平成元年生まれで、失われた30年とともに生きてきたので、何とか日本が元気になっていくことに貢献できればと思っています。もともと技術系で、その上で経営を学ぶことができたので、両方を知る強みを生かして、日本の半導体の復権をリードできるよう頑張ります。