2024年03月11日
経営管理プログラムでは、2年間を通じて少人数グループによるゼミナールに参加し、経営リテラシーを高めます。2年次には各自で設定した研究テーマに対して調査・研究を進めるとともに、教員や他のメンバーとの議論を通じて考察を深め、その成果をワークショップレポート(修士論文に相当)として提出します。今回は、1月にレポートの提出を終えた新免さんに、ワークショップを振り返っていただきました。
私は、コーポレートアクセラレータープログラム(以下、CAP)の学習効果に関する事例研究を行いました。CAPとは、大企業が、新規事業の創出につながるアイデアや技術を持ったスタートアップに対して実施する短期間の支援プログラムです。社内公募等で選ばれた大企業従業員が採択スタートアップに伴走し、事業アイデアの具現化に必要な経営資源を提供する役割を担う点に特徴があります。
大企業にとっては新規事業創出に向けた自社の人材育成、スタートアップにとっては短期間での事業成長や知名度獲得が期待できる二面性を持ったプログラムだといえますが、先行研究ではスタートアップの視点に立った分析が多く、CAPが大企業の事業転換に与える影響についての研究は十分なされていない状況です。
そこで、本研究では、組織における知識創造の根底にある個人レベルの学習に着目することにし、CAPに参加した大企業従業員に対するインタビュー調査を行い、彼らの中でどのような学習プロセスが見られ、その学習効果がいかに所属企業へと還元されていくかを考察しました。その結果、職務経験とスタートアップとの協業領域の同質性が低い場合においては、大企業従業員は、CAP参加中に経験する組織境界を越えた対話や内省的思考を通じて、所属組織の保有する経営資源を再評価し、資源の有効活用に向けて周囲に能動的に働きかけを行うようになるという仮説を導き出しました。
最初は、とにかく問いの設定に苦労しました。関心のある領域を定め、先行文献を調べているうち、自分の知りたかったことはすでに明らかにされているのではないか、という思いにとらわれ、筆が進まなくなることが何度もありました。私は2年間同じワークショップに所属しており、上原渉教授にご指導いただいたのですが、そんな膠着状態に陥った時に指針にしていたアドバイスがあります。それは、一橋ビジネススクールの教育方針にもある言葉ですが、「理論と現実の往復運動」です。理論(先行研究)ばかりを追っていると、分析が抽象化しすぎてしまう。適宜、現実(対象事例)に立ち戻り、最初にこの研究テーマを選んだ時に、自分が明らかにしたいと考えていたことは何だったかを追求する。理論と現実を行き来しながら、何とか、ワークショップレポートの執筆を終えることができました。
ワークショップレポートの執筆のために、レポート内に先行研究として引用した以外にもたくさんの文献を読みました。2年次の9月に行われた夏合宿で研究テーマを確定するまでは、何をどのように調べるのか、問いも調査手法も二転三転しました。社会人になってからは、限られた時間で結論を出すことに慣れてしまっており、このように暗中模索し続ける状態は久しぶりでした。2年間という短い期間でしたが、先人達が蓄積してきた研究の海に浸りながら、自身の知的好奇心を軸として複眼的に情報を収集し分析を行う時間を過ごしたことで、仕事においても応用可能な論理的思考力を鍛えることができたと感じています。
現在、私は、食品メーカーで中期経営計画推進やグローバル人材育成を担当しています。部門横断的な組織課題を整理し、解決に向けて複数部署と連携しながら施策を立案する部署に所属していますが、課題を正確に認識するために必要な知識が不足していることが悩みでした。しかし、この2年間、講義やワークショップ、そして多様なバックグランドを持つ同級生とのグループワークを通じて、経営戦略、経営組織、会計、ファイナンス、人材マネジメント等をバランスよく学ぶことができました。修了後も、担当業務に関係のある人的資源管理を中心に、自分なりの学びを続けていきたいと思います。