2024年02月07日
この本は、小説家の村上春樹が1990年代初めにプリンストン大学で客員研究員として過ごした日々をエッセイにまとめたものです。安西水丸による牧歌的なイラストのカバーの印象とは違い、湾岸戦争やジャパン・パッシング、人種差別など、当時のアメリカの様々なイシューについて重厚に論じています。
初めて読んだのは学生の頃です。その後、同じプリンストン大学で在外研究するという僥倖を得て、出発前に読み直しました。そして昨年2回目のアメリカでの在外研究を終えて、久しぶりにこの本を手に取りました。
30年前の本ですが、アメリカ、そしてアメリカを鏡にして映し出す日本社会の有り様についての考察は、今読んでも「そうそう」と頷く箇所が多くあります。
でもどの内容が心に刺さるのか、ということは歳を重ねる中で変わってきたと思います。例えば、自分の将来に不安を覚えるアメリカの大学生について次のように言っています。
僕にも彼らの不安はよく分かる。僕自身だって、二十歳の頃はやはり不安だった(文庫版p. 184)。
学生の頃、初めて読んだときは、こんな一節は逆にピンとくることはありませんでした。むしろ歳を重ねて読み直すと、「自分も若い時そうだったんだな」と振り返り、深く共感してしまうのです。
同じ書物でも読み直すと、違う景色が見える。再読こそが読書の醍醐味なのです。
【Information】一橋大学附属図書館
村上春樹(1994)
『やがて哀しき外国語』講談社.