2024年01月16日
企業であれ国家であれ、ときに逸脱して劣化してしまうのが世の常です。では、一時的に劣化した組織は、どのような反応を受けて回復に向かうのでしょうか。政治経済学者のアルバート・O・ハーシュマン(1915-2012年)は、この問いに対して離脱(exit)と発言(voice)という2つの反応に注目して立論します。
たとえば、あなたが顧客として粗悪品をつかまされた時に「もう2度と買わない」と心に誓って離れるのが離脱です。あるいは従業員だとして、会社を見限って退職するのも離脱です。いずれの場合も、離脱は痛手となって組織に回復を迫ります。しかし離脱一辺倒では、組織は何がまずかったのか気づきにくいですし、回復する時間すら満足に与えられません。その点、顧客や従業員が苦情や不満を表す発言は、何が悪いのかを組織に教えてくれますし、当人たちも離れず留まってくれるので回復に向けた時間的猶予も与えられます。
では、何がこれら2つの反応を分けるのでしょうか。ここで出てくるのが、忠誠(loyalty)です。その製品や組織に愛着を抱く顧客や従業員は、離脱ではなく発言を通じて組織に回復を求めようとします。忠誠は離脱を思いとどまらせ、発言を促すのです。
離脱・発言・忠誠というたった3つの概念で組織劣化に対する反応行動を説明する切れ味の良さと見通しの良さに学部生だった私は魅せられ、大学院への道を選びました。いつかこうした研究書を書きたいと思っています。
【Information】一橋大学附属図書館
Hirschman, A. O. (1970). Exit, Voice, and Loyalty: Responses to Decline in Firms, Organizations, and States. Cambridge, Massachusetts: Harvard University Press.