HUB-SBA MAGAZINE

2023年度 経営管理プログラム基礎ワークショップの報告会が行われました。

2024年01月29日

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12月23日、本学千代田キャンパスの大講義室にて、経営管理プログラム修士1年生による基礎ワークショップ報告会が行われました。このワークショップは、春夏学期の導入ワークショップに続いて行われるもので、この日の報告会では、修士1年全員が出席する中、各ワークショップの代表者がこれまでの研究成果を報告しました。日々の仕事の中で生じる課題や問題意識と、講義やワークショップで学ぶ理論や方法論を何度も往復しながら進めてきた研究の成果です。

経営管理プログラムでは、修士2年間を通じてワークショップが必修となっており、1年次の導入および基礎ワークショップでの学びを基に、2年次のワークショップでは1年間を通じて個人単位での研究を進め、最終成果として修士論文となるワークショップレポートを提出します。


ワークショップA代表
研究課題「筆記具の購買行動分析」

日本の筆記具市場において、「『定番商品』はどう生まれるのか」というリサーチクエスチョンを立て、定性的な消費者インタビューを行い、消費者セグメントの分類と定番商品の普及のメカニズムを考察しました。その結果、定番商品の特性は一様ではなく、コモディティあるいは熱狂的支持を得る商品などに分類することができることや、筆記具への関心の高い層から低い層に情報が伝播することが分かりました。また、定番になるプロセスにおいて商品に求められることが異なることや、普及後の定番維持のプロセスにはリピートを喚起する別の要件が必要となるという考察も得られました。さらに、ユーザー数の増加とそれに見合う供給・購買ルートの広がりといった定番商品化への要件が明らかになってきました。今後の研究においては、供給側と小売側のパワーバランスなどについても調査・分析を進めていきます。

ワークショップB代表
研究課題「自己革新組織についての考察~米国海兵隊の事例研究と考察」

自己革新ができる組織について、米国海兵隊の組織研究に関する先行研究を基に考察しました。野中郁次郎本学名誉教授の米国海兵隊の研究によれば、海兵隊は古くは戦時の切り込み隊として重視されたものの、大砲の登場により存在意義を失った時期があり、しかしその後、太平洋戦争における水陸両用戦での活躍により再び重要な戦力となったとされています。また、水陸両用戦においてはライフルマン(歩兵)が主力となるため、ライフルマンを艦艇や航空機、兵站(へいたん)が支援する「有機的集中」を可能とする組織構造となっています。さらに「知的機動力」すなわち「自らを主体的に変化させて、来るべき変化を先取りし能動的に革新を生み出す能力」を有しているとしています。他の先行研究では、機動戦を前提とした体制づくりにより、マニュアルよりも機動的な対応を可能とする意思決定を重視する体制へと変化しているとされています。これらの先行研究を基に米国海兵隊の組織の特性を考察すると、自らの存在意義の不安定性や、現場への有機的集中、戦略変化などが自己革新性につながっているのではないかと考えています。今後も別の組織を事例として自己革新のメカニズムを研究していきます。

ワークショップC代表
研究課題「日本企業の『見えざる資産』の活用と開示」

伊丹敬之本学名誉教授は、「見えざる資産」として、技術やノウハウ、ブランド、組織風土などを挙げていますが、その本質は情報であるとしています。今回の研究では、「見えざる資産」を財務会計上の無形資産と捉えて、企業がそれらをいかに活用し、情報を開示できているかを考察します。情報開示においては、知財やブランドなどオフバランスの資産が増加してきたことにより、従来型の財務報告では不十分となりつつあります。今日では、「見えざる資産」すなわち無形資産を積極的に活用することで成長するストーリーの開示が重要になってきています。今回は事例研究として、数年前にアクティビストと対峙したソニーを取り上げ、当時の開示の状況を分析しました。その結果、アクティビストの介入の前後では、経営戦略ストーリーの開示が大きく変化し、経営戦略説明会の開催や有価証券報告書の記載の充実化が見られました。今後は、開示に留まらず、「見えざる資産」がどのようにステークホルダー間で共有されているかを研究していきたいと考えています。

ワークショップD代表
研究課題「キーエンスはどのようにして超高収益企業となり、維持・成長し続けているのか~マネジメント・コントロール・システムの観点から探る」

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出席者との活発な質疑応答

マネジメント・コントロール・システム(MCS)に関する考察を進めるために、キーエンスの事例研究を行いました。MCSには成果・行動・人事・文化の4つのコントロール要素があり、これらをキーエンスの企業分析を行った先行研究を基に考察しました。キーエンスでは、営業担当の上司が部下の顧客に直接コンタクトをし、部下の接客による顧客満足度を把握したり、営業担当が顧客を訪問した際に日時と面談者だけでなく、面談内容や顧客の反応も詳細に報告するルールがあるなど、極端とも思える行動コントロールが多く見られました。今後は、こうした極端な行動コントロールが収益にどのような影響を与えているのか、MCSの他のコントロール要素はどうかなど、引き続きキーエンスを事例にMCSの視点で研究を進めていきたいと考えています。

※ 組織の戦略や目的に沿った行動、意思決定が従業員によって行われるようにするために、経営者が用いる仕組みのこと。適切に設定されれば、MCSは従業員の行動に望ましい影響を与え、その結果、組織が目標を達成する可能性を高める。

ワークショップE代表
研究課題「不祥事の代償~リスク管理を怠った企業が被る損害」

近年、企業による不祥事が後を絶たない中、実際に不祥事が起きた際の損害を分析することで企業行動への示唆を得ることを目指した研究です。調査の対象としたのは、直近3年間に社員による着服不祥事があった特定の業界に属する5社です。不祥事による損害の分析には、あるイベントが株価にどのような影響を与えるかを分析する「イベントスタディ」という手法を活用し、不祥事公表前後の株価推移について、株式市場全体の動きを踏まえた上で、当該企業に特徴的な動向を割り出しました。調査期間は、不祥事公表前の1年間と公表後1週間の株価を比較したものです。結果として、不祥事公表日には5社平均で約1%下落し、その後の1週間では下落が拡大しており、容易には回復しない状況が見て取れました。ある研究では、日本ではCSR活動に積極的な企業が不祥事を起こすと、それまでの行動が偽善と取られダメージが大きいと考えられています。そこで、今回の調査対象を分析してみると、CSRランキングの上位社ほど株価下落が大きく、低位社では公表後1週間で寧ろ回復していたということが判明しました。今後は、調査対象を増やし、不祥事による損害とESG取組みとの関係の研究を進めていく計画です。

ワークショップF代表
研究課題「高齢者の消費行動と新たなシニアマーケティングの可能性」

一口に高齢者といっても身体的・心理的衰えを迎える時期は遅くなってきている中、「高齢者」というセグメントを正しく捉えられているのか、という問題意識に基づく研究です。先行研究では、高齢者の購買行動において自分の寿命を意識しているという結果が出ています。また別の研究では、高齢者の社会的ネットワークと消費行動の関係を調べたものもあります。そこで、本研究では、高齢者と他の世代との違いや高齢者間での違い、さらにそれらの違いを生む要因としてコミュニケーションの量と質による影響について明らかにしたいと考えています。特に、「高齢者と他の世代の間で情報収集手段が異なる」「高齢者の中でも戦争影響世代と団塊世代、ポスト団塊世代(いわゆる「しらけ世代」)によって特性が異なる」「単身と家族同居の違いによって消費の動機が異なる」といった観点について考察していきます。考察のフレームとしては、消費行動に至るまでの動機に注目した消費行動論や、結婚や出産などのライフイベントによる消費行動の変化を見るライフコースアプローチなどを用いて、研究を進めていきます。


各ワークショップ代表からの報告の後、修士2年次のワークショップについて説明がありました。

加藤俊彦教授

修士1年次の導入および基礎ワークショップは、考え方や分析のベースとなる書籍や論文を読んだ上で考察して議論してきましたが、2年次は最終的に提出するワークショップレポート作成に向けた個人の研究報告が中心となります。ワークショップレポートでは、自分の関心に基づいて独自の問いを立て、必要なデータや情報を集めて分析して、問いに対する自らの答えを提示することが求められます。経営管理プログラムの皆さんは、仕事を続けながらレポートを仕上げる必要があるため、限られた時間を計画的に使うことが大切です。

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