2023年11月02日
ホスピタリティ・マネジメント・プログラムに設置されたこの講義は、地域観光事業の課題を考え、解決の手法を学べるもので、この分野の最前線にいる実務家による特別講義です。授業では、過去の事例から現在進行形のものまで、様々な地方創生やインバウンドマーケティングの事例を扱います。プロジェクトに関わる多彩なプレイヤーをまとめるリーダーシップと、マーケティング・スキルを発揮でき、顧客のニーズに応えられる人材を育成する目的で開講されています。
業界を担うリーダー人材を育成する
私は20年間勤めていた広島県庁での財務や秘書業務を経て、「せとうちDMO」を構想するためのメンバーとして、プロジェクトに参加しました。これがきっかけで地域振興のコンサルティングや、海外から地域に人の流れを作る、インバウンドマーケティングの事業をしています。授業では、こうした現場で日々、試行錯誤をしている課題について、どのように解決しているかの知見を伝えています。この業界はリーダーシップを取れる人材がまだまだ少ないので、数年後に、この受講生の中から一人でも二人でも、そうした人材が出てきてくれることを期待しています。
デスティネーション・マーケティングの目的
この授業のタイトルである「デスティネーション・マーケティング」は、旅の目的地(地域)を商品として考えています。大きな目的としては、地方に人を流す、地方の雇用を増やすということで、集客、経済効果を上げるための戦略マーケティングです。この全7回の講義では、「デスティネーション・マーケティング」の基本に沿って学び、エリア単位のマネジメントやブランディング、DXについて紹介していきます。特に、どのようにして人を地域へ呼び込むのかというところでは、マーケティングの考え方や手法を活用し、具体的なプロモーション方法やインバウンドの仕組みづくり、財源の確保などを事例に基づいて議論します。また、地方創生の現場では、人や組織が重要となるので、課題解決のために、皆がいかに知恵を絞り、地域単位で共通の目標に向かうことができるか、というプロジェクトマネジメントについても解説していきます。
豊富な事例に基づき、課題解決を考える
今回の授業で取り上げた事例の一つとして、「せとうちDMO」があります。2013年に瀬戸内海を囲む7県(兵庫県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県)が合同で、瀬戸内全体の観光ブランド化を推進するための組織が結成され、地域全体での観光地マーケティングやプロダクト開発を推進しています。このようなプロジェクトでデスティネーション・マーケティングを考える際には、まず根本課題として、プロジェクトに関わるプレイヤーの多さがあげられます。プロジェクトに関わっている人たちから共通の理解を得て、目標を共有できるかということが重要になってきます。このDMO(Destination Management / Marketing Organization)には7つの県が参加していますし、当然それぞれの状況は違ってきます。プロジェクトを始めたころは、各県とも自分たちの側のみを見ていました。特に行政、地方自治体は、県民側はよく見ていますが、呼び込む顧客の側を見ていないという傾向があります。このような人々や組織を動かすためには、DMOの司令塔がマーケティングの思考を持って、明確にビジョンを示すことが必要となります。事例研究を通じて、そうしたディレクションができる高度人材を育てていきたいと考えています。
課外授業で現場を訪ねる ―理論と現実の往復運動―
希望者には課外授業として、私が担当している地方創生プロジェクトの現地視察をしていただきます。地元の方々との交流で、現場の生の声を聞いたり、勉強会にも参加しています。昨年度の受講生は、講義でも取り上げた瀬戸内エリアの現地視察や新潟の南魚沼市で地方創生のリーダーシップをとっている企業である、八海醸造株式会社のテーマパークを訪問しました。教室で理論と事例、解決方法について学んだあとに、 こうした"地方創生の現場"を見てデスティネーション・マーケティングの疑似体験をしていただきます。これはまさに、一橋ビジネススクールの教育方針である「理論と現実の往復運動」を実践する場となっています。